職場のセクハラ問題を丁寧に描いた佳作『スタンドアップ』(「シネマの女は最後に微笑む」更新)

映画から現代女性の姿をピックアップする連載「シネマの女は最後に微笑む」第13回。ここのところずっと問題になっていた財務省事務次官のセクハラ疑惑を枕に、シャーリーズ・セロン主演の『スタンドアップ』(2005)を取り上げました。


「皆と同じように働きたいだけ」、職場のセクハラと闘い続けた女性 | ForbesJAPAN


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80年代末のアメリカで一人の女性炭坑労働者が、会社に対して初めてのセクハラ訴訟を起こす経緯を、実話を元に描いた話題作。ドラマとしてもよくできた作りで、ヒロインの周囲のさまざまな人々の微妙な立場や繊細な心理が丁寧に描かれている、今一度観直したい作品です。
シャーリーズ・セロンとその友人役のフランシス・マクドーマンドはもちろんですが、マクドーマンドの夫役として出てくるショーン・ビーンの立ち位置がなかなかいいのです。町で人々から悪い噂を立てられた母親(セロン)とうまくいかなくなった息子の少年を、さりげなくサポートする大人。カッコいい。未見の方は是非!



●追記
3月下旬に公開された下の記事ですが、宮沢りえ主演の『紙の月』、観ていた方も多かったんでしょうか、50000PVを達成したのでインセンティブの対象になりました。インセンティブってのがどういうものかこれで初めて知った私です。ブックマーク下さったり、Twitterの方でRTやいいねを下さった皆様、ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願い致します。


「ありがとう」が聞きたくて横領に手を染めた女の夢見た自由 | ForbesJAPAN

アートをめぐる権力関係と搾取‥‥『ビッグ・アイズ』(「シネマの女は最後に微笑む」更新されました)

映画から現代女性の姿をピックアップする連載「シネマの女は最後に微笑む」、第12回がアップされています。今回取り上げた映画は、実話を描いたティム・バートン監督『ビッグ・アイズ』(2014)。アラーキーのモデルだったKaoRiさんの告発の件を枕に書き起こしています。


芸術の「共犯」によって失った誇りを、彼女はいかに取り戻したか|ForbesJAPAN


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アラーキーの件は写真家とモデル、この作品は偽画家と画家という大きな相違はありますが、芸術の場における歪な関係性が生み出す問題に、共通したものを感じました。
絵を描くのが好きな世間知らずで天然の子持ち女性を、エイミー・アダムスが好演しています。この作品で、第72回ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞。彼女を騙す承認欲に飢えた滑稽なペテン師を、クリストフ・ヴァルツが嫌らしいほど巧く演じていて、イライラしつつも半笑いを禁じ得ません。
そして、毒の効いた独特のコメディタッチで風刺されるアートに群がる人々、芸術とビジネスの関係。映像はカラフルで、50年代末〜60年代半ばのポップでキッチュな雰囲気も楽しめます。


ヒロインのモデルとなっている当時一世を風靡したらしいマーガレット・キーンの大きな瞳の子どもの絵を、映画を観るまで私は知りませんでした。ウォーホルの賛辞が冒頭にありますが、ポップアートの文脈でも評価されたのでしょうか。アートとイラストの垣根を壊して出てきたような感じに見えました。今だと、奈良美智のような存在だったのかもしれません。バートン監督も彼女の絵のファンとのこと。

妊娠・出産・子育て映画のリアリティ、『理想の出産』(「シネマの女は最後に微笑む」更新されました)

映画から現代女性の姿をピックアップする連載「シネマの女は最後に微笑む」、第11回がアップされています。


妊娠、出産、子育て 翻弄される心身とパートナー関係の行方 | ForbesJAPAN


今回は、実話を元にした2012年のフランス映画『理想の出産』(原題はUN HEUREUX EVENEMENT、英語ではA HAPPY EVENT)。
男女関係はいかにもフランスらしいところもありつつ、妊産婦の心身の揺れ動き、パートナーとの関係の変化と悩みは、おそらく世界共通のものがあるのだろうなと思わせる作品です。
主人公のモノローグが随時入っており、ハリウッド映画だと「赤ちゃん万歳」な感じをベースにしたドタバタコメディになってしまいそうなところを、当事者目線で真っ向正面から丁寧に、ユーモアも交えて描いている点が好感持てます。R18なのはセックスシーンがそこそこあるからでしょうが、それもきちんとリアリティを出すための演出になってます。


ただ、本文には書いてませんが一点だけ残念なのが、主人公が最後の方で哲学なんか何の役にも立たないと言ってしまうところです。そりゃ妊娠、出産、育児に直接役立つものではないでしょうが、せっかくやってきた学問をそういうふうに否定するのはちょっとな‥‥と思いました。
室内シーンが多いですが、あまり閉塞感はなく映像はなかなかきれいです。経験者も未経験者も面白く観られるのではないでしょうか。


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『紙の月』の主人公と総理夫人の共通点について考えた(「シネマの女は最後に微笑む」更新)

映画から現代女性の姿をピックアップする連載コラム第10回、今回は宮沢りえ主演でかなり話題になった『紙の月』(吉田大八監督、2014)を取り上げました。
森友問題で渦中の人である総理夫人、安倍昭恵氏についての短い考察を冒頭に置いています。


「ありがとう」が聞きたくて横領に手を染めた女の夢見た自由 | ForbesJAPAN



『紙の月』は角田光代の原作と、それに忠実な原田知世主演のドラマも面白かったですが、大胆な脚色を施したこの作品が私はとても好きです。
押さえつけられた欲望を野方図な消費と不倫恋愛で昇華しようとする元のヒロイン像の中で、「自分が何かを与えることによって人に感謝される」ことの快感に嵌るという要素が、映画ではより強く打ち出されています。


ヒロイン梨花と総理夫人では、もちろん立ち位置も振る舞いも問題の構造も違います。梨花は自分の手にしたものが「紙の月」=偽物であることに気づいています(犯罪なので当然です)が、総理夫人にはおそらく罪の意識は欠片もないでしょう。少なくとも今のところはそう見えます。
ただ、自分の厚意に対し感謝が返ってくることに悦びを覚え、その延長線上でふと一線を越えていたという点で、通底するものがあるのではないかと私は感じています。


劇場で見た時、宮沢りえの演技に息を呑み、終盤の疾走シーンでは心の中で号泣しました。彼女に絡む銀行員の大島優子小林聡美も素晴らしいです。未見の方は是非!

ピカピカの青春映画の中の大人の女たち・・・『ローラーガールズ・ダイアリー』(「シネマの女は最後に微笑む」更新)

映画から現代女性の姿をピックアップする連載コラム「シネマの女は最後に微笑む」、第9回が公開されています。


闘いながら少女を先頭へと押し上げる、タフな女たちの気概 | ForbesJAPAN


ローラーガールズ・ダイアリー [DVD]

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ドリュー・バリモア長編映画監督デビュー作『ローラーガールズ・ダイアリー』(2009)ですが、ローラーゲームをモチーフとしたガールズ・ムーヴィーなので、「女」ではなく「少女」が主人公。なのになぜここで?と言えば、興味深い大人の女がいろいろ出てくるからですね。
本コラムでは、ヒロインを取り巻く主要な女性を、「少女を支配する女」「少女を支援する女」「少女に勇気を与える女」として考察しています。
多くの人は、10代でこの3つのタイプに出会っているんじゃないでしょうか。母だったり、学校や塾の先生だったり、親戚の叔母さんだったり、TVや映画の中の人だったり‥‥。


ヒロインのエレン・ペイジが、とにかくキュートです。以前から、下がり気味の眉と目の関係がイーサン・ホークに似てるなと感じていましたが、今回久しぶりに再見して、丸いおでこが濱田岳にそっくりだわと思いました。って、なんで男性の俳優さんと比較してるのかわかりませんが。
それから最初に観た時は、ジュリエット・ルイスの登場に「お、ここにこういう役で出てきたか」感がありましたが、やっぱりあのジュリエット・ルイスでした。どこを切ってもエキセントリックな血が出てきそうな。
ドリュー・バリモアは、遅刻の常習犯だけど明るい選手の役で出ています。
お母さん役のマーシャ・ゲイ・ハーデンは、こういう少し歪な役がよく嵌りますよね。『モナリザ・スマイル』の下宿先のマダムとか、『ミスト』の狂信的キリスト教信者とか。『ミスティック・リバー』でも、不安に押しつぶされてヤバい選択にすがる役だったっけ。

自分のためだけに生きるか他人と共に生きるかを問う『マーサの幸せレシピ』(「シネマの女は最後に微笑む」更新)

映画から現代女性の姿をピックアップする連載コラム「シネマの女は最後に微笑む」、第八回が公開されています。


完璧主義で人間嫌いな女性シェフが、試行錯誤の果てに見つけた人生 | ForbesJAPAN


マーサの幸せレシピ [DVD]

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今回は、2007年にハリウッドでリメイクされヒットした、2002年のドイツ映画の話題作『マーサの幸せレシピ』を取り上げています。
作品タイトルはほんわかしてますが、内容は結構刺さります。ちなみに担当編集者には「じーんとした」とお褒めを頂きました。


キャサリン・ゼタ=ジョーンズ主演のリメイク版『幸せのレシピ』では、娘の父親の登場がカットされています。その分、後半は恋愛面がクローズアップ。
テンポは良く、さりげなく説明的シーンも挿入されていて、見やすいと言えば見やすいウエルメイドな作りですが、私は元のドイツ版の方が好きです。


ヒロインを想う男性は、階下の建築家(ドイツ人)と新任シェフ(イタリア人)。ドイツ人は真面目で親切、イタリア人は陽気なラテン系。
ドイツ人であるヒロインにとってドイツ男はいい人だが間が悪い。イタリア男とは反発し合う。しかし彼の存在はどんどん大きくなってゆき、やがて、仕事人間の彼女の人生に足りないのはラテン的要素だったという結論が出る。


この設定がハリウッドのリメイク版では活かされていないのです。気の強い女を演じてハマるキャサリン・ゼタ=ジョーンズと優男のアーロン・エッカートの組み合わせは悪くないのですが、二人並んでいると見た目、すぐ恋に落ちそうに見えてしまう。
ドイツ版は、まんまイタリア人の男で顔もキャラも濃いし、ドイツ男も生真面目な中にユーモラスな味があります。
主人公と引き取った娘との関係も、ドイツ版の方がやや大変そうな分、主人公がハードモードでてんぱってる雰囲気がよく出てるし、二人の気持ちが通い合った時の感動が大きいと思います。
まあこれは好みの問題ですが。見比べてみるのも面白いかもしれません。


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ケイト・ブランシェットの「手負いの雌ライオン」ぶりに胸がシクシクとなる『ニュースの真相』(「シネマの女は最後に微笑む」更新)

映画から現代女性の姿をピックアップする「シネマの女は最後に微笑む」第7回が公開されてます。


真実とデマの間で抗った女性ジャーナリストの最後のプライド | ForbesJAPAN


今回取り上げたのは、2016年のアメリカ映画『ニュースの真相』。2004年の米大統領選前、ブッシュの経歴詐称を暴き出そうとして陥穽に嵌り、メディア界から放逐された有名女性ジャーナリストの手記の映画化。
ケイト・ブランシェットとロバート・レッドフォートの共演で話題になりました。



実話ですがメディアの内幕ものとしては若干食い足りないところがある分、脚本と俳優の演技でしっかり見せている作品だと思います。何より、男社会で敗北する女の物語ですので刺さります。
自信と決断力に溢れ、やや強引だけれど必ずネタをモノにする、誰もが一目置く切れ者の女性ジャーナリスト。追求心、正義感、仕事で成果を出したい気持ち、いろんなものがないまぜになった中で、ちょっとした油断や慢心が大きなミスに繋がった時、ヒロインは二度と立ち上がれないほどの総攻撃に晒される。


「うわぁ、これは気の毒」と、「でもこの人、ちょっとヤな女だったよね」という気持ちが交錯しますが、ヒロインの内面に「悪い父」と「良い父」がいるとわかるあたりで、ああなるほどなぁ‥‥と。
必死で闘って上昇してきた女性の中に、こういうタイプは結構いるのではないかと感じました。