でき婚の失敗と「オイディプスの復権」

先日の記事女の子の欲しいもののコメント欄から抜粋。

脂 2011/01/05 03:17
このケースはむしろ「その男が過剰に「理想的な家庭」みたいな妄想を抱いていた可能性」も考えた方がいいな。
妄想と現実のギャップに対する防衛。現実に対し妄想を付加させ、他者に同意してくれることで自我が安定する。元夫がした防衛としての言述から広まった噂を、知人は聞いたのかもしれない。
大野センセこのケースは考えらないか? まあ人づての話に突っ込む必要性もないがな。
ちなみに「理想の家庭像」に固着する症状はわたしの周りの男には多い。

※夫に確認したら、「職場の知人」が、近所付き合いが密な田舎町の家庭内のことを身近な人にラフに喋っているような中で、直接その家のお母さんから聞いたり近所の人から聞いたりした話を総合して夫に話したものとのこと。元夫である男の視点は、この話には入っていない。

脂 2011/01/05 03:19
>ちなみに「理想の家庭像」に固着する症状はわたしの周りの男には多い。

つかこれいわゆるもろヤンキーだよな。暴走族あがりとかサラリーマンになる男よか家庭に対する固着は強いだろ。
こうやって育ちの悪さがばれると。

脂 2011/01/05 03:34
いや、ヤンキーに限らず、若いオタクたちにも結構いたな。男の子で。アマチュアライトノベル作家が作品を投稿しあうサイトだったんだが、ミソジすぎてる奴って少数だったな(当然だ)。主婦は多かったが。話がそれた。
そーゆー「オタク男子」たちもなー、意外と「早く結婚して家庭を作りたい」とのたまうんだよなー。何人か見かけたわ。大学生ぐらいか。
2ちゃんはあんまそんな話みねえな。結構2ちゃんて年齢層高いみたいだしな。
会社にきた新人君もそうだったなあ。「会社で出世するより温かい家庭を作りたい」的な。


大野センセや。むしろ若い子はこんなケースが象徴じゃなく、オイディプス復権がトレンドな気がするんだが、いかがか。

(間のコメント省略)

ohnosakiko 2011/01/05 11:48
脂さん
「男の方が「家庭」みたいなのに妙な幻想を抱いていた」について。
これははっきりとはわからない。夫の話の中では、男は「女の子と同世代で、生活力もなく結婚する気もないのに避妊しなかったアホな奴」という扱いだった。
ただ、ヤンキーに限らず男子の中に家庭志向が芽生えているというのは、私も学生を見ていて感じる。まあ往々にして、未だに女に良妻賢母を夢見ている都合のいい家庭像だったりすることもあるんだけど、ともかく自分が全面的に承認され、慰撫される唯一の場として、自分の将来の家庭を夢見るというか。


妊娠させて「責任」とってデキ婚した時点では、それなりに頑張らねばという気になってるだろう男の方は。周りからも言われるだろうし、まだ恋愛モードの延長だろうし。
でもそういう情熱は早晩醒める。若い時は醒めてくるとガクンとモチベーションが下がる。性欲がすべての原動力みたいなところあるからね。
それに加えて世帯収入が少ないから生活苦で女の子は何かと実家を頼りにし、何となく邪魔者扱いされてギクシャクし始めて面白くないから外で遊んでしまい離婚‥‥というのは、若年者のデキ婚にはありがちなケースだと思う。
(以下略)

ohnosakiko 2011/01/05 11:52
男の子の行動に見る「オイディプス復権」、面白いな。

ohnosakiko 2011/01/05 11:59
でもいつの時代も男の家庭幻想ってあるし、似たり寄ったりという気もする。
「男は食事とベッドのために結婚する」って言う。



紀元前4世紀にソフォクレスによって書かれた戯曲がベースとなっているギリシャ悲劇、オイディプス王の物語は知っている人が多いと思うが、ざっと紹介。
オイディプスはテーバイの王ラーイオスの息子だが、生まれる前に「将来父を殺めるだろう」という神託を受けていたため、出生後捨てられ、成長の後に旅の途中で出会った男を父と知らずに殺し、スフィンクスの謎を解いてテーバイの王の座につき、その妻イオカステーを母と知らずに娶り子をもうける。しかしやがてオイディプスは自らの出生の秘密を知ることとなり、イオカステーは首をくくり、オイディプスは自らの目を抉り追放の身となる。
フロイトエディプス・コンプレックス(母子一体の万能感の中にいる幼児(男子)が、やがて自分と母親の間に父親の存在があることに気づき、父親を亡き者とし母親を独占したいと願うようになるが、やはり父親にはかないそうにないという敗北感を味わい、また父を憎んだことに対し罪悪感も生まれ、葛藤する心理)はもちろんこの物語をベースにしたもの。


さて。
でき婚してうまくいかなくなって離婚した男が、何をどう思っていたのかはわからないので、勝手に想像してみることにする。


結婚ましてや子供をもつことなんかまったく考えもしないでつき合っていた女は、いつのまにか「母」になっていた。「母」になりたいという彼女の願望を知らないまま、自分は自動的に「父」になった。
彼の中にあったのは単純に「男と女」の性愛関係である。それが突然「男と母」の性愛関係に化けたのである。
彼女の愛は子供に向いている。愛を取り戻したいなら、「男」ではなく「父」として子育てに積極的に関わらねばならない。そこで彼は「父」になるべく努力を試みる。「夫」の自覚もまだ不十分なまま、なんとか「父」になろうとする。


だが、子供の生活の保障として暗に頼りにされているのは、経済力のない自分ではなく彼女の父親である。子供には最終的に「おじいちゃん」という「父」(=自分の義父)がいるのだ。その影は常に自分と女(母)の間に立ちはだかっている。
「義父」を亡き者とし、「母」になった女を独占することはできない。自分が「義父」以上に、子供にとって「父」らしい「父」になるしか道はない。
若い彼はそれに失敗した。彼女が、「男」を引きずったままの彼に「父」の座を与えなかったのかもしれない。あるいは彼が、女を母親扱いする「息子」になってしまったのかもしれない。
「母」になった妻に「男」や「息子」としてしか対面できない夫は、家庭に居場所をなくし追放される。



しかし「男」でいるとは、「男」を装着し欲望する者として振る舞うことだ。周囲の若い男性や男子学生を見ていると、それに疲れている人が増えているように思う。女性に比べて彼らは、恋愛にも婚活にも腰が引け気味だ。*1
そこには大きく見て二つの傾向がある。一つは、「趣味に使うお金や時間が欲しいから、それが奪われるだろう結婚は回避(恋愛もラブプラスで充分)」というタイプ。もう一つは「家庭願望」タイプ。大抵「一生独身は寂しい」「落ち着きたい」「癒しが欲しい」と言う。
それは、「父」の役割を引き受けたいということなのだろうか。それとも、女を第二の「母」にして、失われた幼少期の母との蜜月を擬似的に取り戻したいということか?


なんて聞いても、たぶんポカンとされるだけだろね。
「しばらくは自分のやりたいこと優先だけど、なんとなーく彼女に押されているうちに、気づいたら子供もできてて、仕事は忙しいけどそれなりに居心地のいい家庭にどっぷり浸かってた。そういうのも幸せなんじゃないかな。だって一人で過ごすには人生長過ぎるから」
‥‥てなふうな答えが返ってくるのではないかと予想。
今度学生に聞いてみよ。

*1:余談だが最近、アラフォーの知人男性ができ婚した。結婚願望はあり以前は恋人もいたが別れて数年経ち、もう結婚を諦めかけていたところ。彼女に紹介される前、夫と私はいろいろ予測した。「相手、幾つくらいだと思う?」「ひょっとしてすげぇギャルみたいな若い女に騙されとったりせんか」(例のでき婚失敗話を聞いたばかりの夫)、「いや案外同世代で気の合う落ち着いた相手が見つかったかもよ」。どちらの予想も外れ、23歳と若いがすっぴんでやや森ガールの入ったほっこりした感じの女性だった。彼女からつきあいたいとアプローチしたそうだ。「こういう紳士的な人なら大丈夫だと思って」。口の悪い夫が「捨てられないようにな」とからかったのを受けて彼は奥さんに「捨てないで下さい」と言い、奥さんはニコニコしていた。