家事ハラと「躾」

「家事ハラスメント」なる言葉がネットでもテレビでも取り上げられていて、「注意や指摘してるのをハラスメントとは」「いやこれが職場なら完全にハラスメント」「共稼ぎで「夫が手伝っている」というのがおかしい」などなど、議論侃々諤々ですわね、奥様。
「セクハラ」という言葉を獲得して女性がモヤモヤした感情の原因を突き止め溜飲を降ろしたあの時代に、将来「ハラスメント」という言葉が男性である夫から私たち女性に向かってくるとは、誰が想像したでしょうか。だいたい「ハラスメント」って権力関係のあるケースで使う言葉じゃございませんでした? あ、家庭内では完全に妻>夫ということですか、了解しました。


それはさておき、夫婦フルタイムで共稼ぎの場合、夫の方が「家事を手伝っている」程度の認識では拙いでしょうけど、共稼ぎでも妻がパートで夫より拘束時間が短ければ、必然的に家事労働の中心は妻になり、家事なんてほぼ「慣れ」の賜物ですから、夫が独身時代に一人暮らしである程度ちゃんと家事をやってきた人でない限り、妻=熟練者、夫=初心者となりがちですわよね。
熟練者=上の者から初心者=下の者にモノ申す時、本人は意識してなくてもどうしても上から目線になりやすく、ただでさえ忙しい中夫の働きぶりをいちいちチェックするのも大変で、それだけで「仕事」が一つ増えたような感じになってしまい、そこで「間違い」をやらかしているのを発見した日にはもう‥‥!!!(ピキピキッ)ですわね、わかります。


しかし一歩引いて考えてみますと、育った環境、文化圏の違いや性格の違いは、もっとも日常的な行為の一つである家事のやり方の違いなどに現れやすいものだと思われます。自分にとってはダメでも相手にとってはOKなことはあり、またその逆もしばしば。つまり、「こんなことは常識だろ」と頭から決めつけない方がようござんす。注意するのに皮肉なんか混ぜたら負けですわよ。
これは「躾」なのです。犬を躾けるのに皮肉は言いません。何がダメなのかどこまでできたらOKなのか、最初にはっきりさせといて、あとはできるまで辛抱強く見守り、ちょっとでもできたらもう盛大に褒める。ご褒美もあげる。これしかありません。
夫は「犬」なのか。ええまあ(一部の男性を除いて)家事能力育成に関する限り、そう思っておいたほうがよろしいでしょう。そんなもの育てなきゃいけないくらいなら、いっそ専業になって自分で全部やった方がマシ、さもなきゃ結婚なんかしない! もしするなら、最初から「男女平等」な結婚じゃなきゃ厭! ええ、そういう考え方ももちろんありですわね。


でも。そもそも、夫婦生活(他人との共同生活)=無条件に楽しいもの、ではありません。それは言わば、終わりの見えない闘争の場です。「犬」との闘争? そう、相手もこちらの隙を窺ってマウントを取り、あわよくば「主人」になろうとしています。普通の犬だってそうなのですから、人間の男なら尚更です。育ちも経験も意識も感覚も異なるのなら、more尚更です。
そうやって、幾多の戦を交えた相手がいつのまにか、なんだか知らないけど共に闘ったかけがえのない相手、みたいになっていた時、初めて「誰かと一緒に生活していくのって、案外いいもんかもね」と思えるのではないでしょうか。
みなさまのご健闘をお祈り致します。



キモい口調で勝手なこと言ってるおまえんちはどうなんだ?と言いますと、料理に関してはかつてはこんな具合(記事後半)、仕事の忙しさと収入比率及び家事担当比率はこんな具合(記事前半)でした。掃除も一応私がしているのですが、したつもりなのに突如目の前で掃除機をかけられることがたまにありました。ただ子供がいないのと、私の仕事が平均して週の半分くらいなので、フルタイム共稼ぎ子供あり家庭ほどの忙しさはなかったです。
それでも揉めました。揉めに揉めてやっと落ち着いて十年ほど経ったところで、夫が単身赴任になりました。まだ三ヶ月半ですが、「一ヶ月ぶりに布団カバーを洗った」だの「今日のメニューは天然鰤の塩焼きと中華サラダとトマト」(画像付き)だの、しょっちゅうラインで送ってきます。そりゃ一人だけなら家事も楽だろうよ、こっちも楽してるけどなと思いつつ、「頑張ってるね!」「美味しそう^_^」と返しています。


ちなみに、ヘーベルハウスの家事ハラCMより「うわー」と思うのは、味の素KKのCMです。父親の影が全然見えない。母子家庭ですか?と思ってよく見たら、朝のベッドにいるのを確認しました(追記:あと子供の服着せ替え手伝いもしてましたね。それにしてもあまりに出番がない。そのくらいお父さんのお仕事が多忙ってことかもしれませんが、仕事の多忙さで言えばお母さんもなかなかで)。共稼ぎ家庭(夫は遅くまで残業)の現実を反映させていて、多忙なワーキングマザーを応援しているつもりなんでしょうが、こんなふうに持ち上げられてもなぁと感じる人は多いかもしれません。



●追記
ナイス突っ込みと思ったのでお答えしたいと思います。

id:serio 女性って、なんで夫を「しつける」だの「教育する」だの言うのが好きなんだろう。妻をしつけるとか夫が言ったら怒るくせに。
http://b.hatena.ne.jp/serio/20140717#bookmark-206767093


そうですよね、すみません。「夫の躾」「夫の教育」という言葉は、家の外では夫に主導権を渡すが、家の中ではこちらが主導権を取って夫を「操縦」する、というわりと古典的保守的な考えから来ている、一種の慣用句に近いものですね。なので、テンプレということを意識して「」で括っています。
たぶん、どんなに家の中で「妻>夫」であっても根本的なところで「夫>妻」なのでは?ひんぱんにそっちにひっくり返っているのでは?という妻の意識があって、「夫の躾」「夫の教育」という言葉が出てくるのだと思います。だから「妻の躾」「妻の教育」と言われたら隠された事実にダメ押しされる気がして、ムキーッとなるのではないでしょうか。自分自身を顧みてもそう思います。
また、元の議論では一般に妻の方が家事に習熟しているという前提があるので、「(一部の男性を除いて)家事能力育成に関する限り」、犬の「躾」と同じであると書きました。
もちろん私も、結婚して2年や3年でそう思ったわけではありません。今年で29年目ですが、今回の「家事ハラ」関係議論を見るうちに、これまでを振り返って「やっぱりそういうことじゃないかなぁ」とつくづく感じた次第です。