イカれたヴァレリア・ブリーニ・テデスキが最高に輝いている(「シネマの女は最後に微笑む」第26回、更新されました)

映画から現代女性の姿をpickupする「シネマの女は最後に微笑む」第26回は、イタリア映画『歓びのトスカーナ』(パオロ・ヴィルズィ監督、2016)を取り上げてます。


束の間でも「今、ここ」で生きる歓びを ワケありな二人の逃走劇 | ForbesJAPAN


歓びのトスカーナ [DVD]

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例によって、ズレた邦題です。トスカーナの豊かな自然の中に育まれる人間愛‥‥みたいなほっこり系を想像してしまいますが、原題は「La pazza gioia(狂気の歓び)」。治療施設から逃げ出した「普通」ではない二人のロードムーヴィー。さまざまな出来事が次々と起こり、イタリアンのフルコースなテンコ盛り感が満載。


陽気で破天荒な女を演じているヴァレリア・ブリーニ・テデスキが、最&高です。最初は「何だこのウザい女」と思いますが、だんだんと、いい加減さと繊細さと剛胆さのバランスが絶妙で尚かつ強烈なそのキャラクターを、愛さずにはいられなくなります。
内容としては、死ななかった「テルマ&ルイーズ」という感じでもあり(実際そっくりの場面がある)、女性の生きづらさを正面から見つめる視線が根底にあります。「幸せが見つからない」という台詞も心に残ります。そして、どんな境遇にいる女も自分の幸せを求め、人生を謳歌していいのだという力強いメッセージ。
見終わった後は、細かいことでクヨクヨするな、ちょっとくらいちゃらんぽらんでも大丈夫、今をとことん楽しめ‥‥!という気分になれる作品です。

トランスジェンダー女優ダニエラ・ベガの歌に震える(「シネマの女は最後に微笑む」第25回、更新されました)

映画から現代女性の姿をpickupする「シネマの女は最後に微笑む」第25回は、トランプ大統領が先月示したトランスジェンダーを実質排除する方針のニュースを枕に、『ナチュラルウーマン』(セバスティアン・レリオ監督、2017)を取り上げてます。


恋人の死によって表面化したトランンジェンダー女性への逆風 | ForbesJAPAN


ナチュラルウーマン [DVD]

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法的にパートナーシップを認められないことでトランスの人が被る不利益や理不尽さが描かれますが、それを包む大きなテーマは「愛の喪失をどう生き抜くか」です。
トランスジェンダーの女優で歌手のダニエラ・ベガの細やかな演技と、終盤にちょっと意外な展開があるのが秀逸。最後のオペラ歌唱は鳥肌が立ちます。


去年、ForbesJAPANにて月2(第2・第4土曜)でスタートしたこの連載も、2年目に入りました。
毎回、映画の内容にわりとしっかり触れていますが、読んだ上で観ても楽しめるように、また既に観た人が読んでも再度楽しめるように‥‥と心がけて書いてきました。
今度ともどうぞよろしくお願い致します。

チャウシェスク政権下の女子大学生に現代を透かし見る(「シネマの女は最後に微笑む」第24回更新されました)

映画から現代女性の姿をpickupする連載「シネマの女は最後に微笑む」第24回は、『4ヶ月、3週と2日』(クリスティアン・ムンジウ監督、2007年)を取り上げています。
人口増加を目指して中絶が禁止されたチャウシェスク時代のルーマニアで、友人の違法中絶に協力する大学生の一日を描いた佳作。第60回のカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。


「こうするしかない‥‥」友人のために奔走した女子学生の諦念 | ForbesJAPAN



わりと地味な感じの冒頭から徐々に、本当に徐々に引き込まれて、気づくとにっちもさっちもいかない緊張感の中に見る者を巻き込んでいく演出は秀逸。
「悲劇」と言っていい内容ですが、しかしこれはありふれたものだったろうと思わせる出来事が、長回しのカメラを多用しながら淡々と語られます。
深刻な状況の中に脱力系の笑い(というか笑い未満か)がふと挟まれるところは、ちょっとカウリスマキを思わせたりもしますが、ほのぼの‥‥とはなりません。無情です。


主人公のオティリアにおんぶにだっこの友人ガビツァは、「いるいる、こういう人!」と思う人が多いのではないでしょうか。困ると泣きつくくせに、こっちが心配して走り回っているのに結構シレッとしている。悪気がなさそうだから余計に厄介なのだけど、案外相手の人の良さにつけこんでいるのかも‥‥?とか思ったりして。
オリティアが渋々顔を出す、恋人の母親のバースディパーティでの大人たちの遠慮のない会話も、聞いていて陰鬱になってきますが、「今」に通じる興味深いものがあります。


私の好きな箇所は、「処置」が済んだ後、ホテルでガビツァを問いただしつつも、怒りには至らず諦めが見え隠れするオティリアの横顔を、アップで延々と映し出すシーン。ここでの印象がラストで効いてきます。オティリアを演じたアナマリア・マリンカという女優、すばらしいです。
終盤に近いところで(作り物の)「胎児」が結構長く映るので、そういう画像が苦手な方は要注意(出てくる前触れはわかりやすいです)。

清濁合わせ呑んで闘う女の新しい描き方『女神の見えざる手』(「シネマの女は最後に微笑む」更新)

現代女性の姿を映画からピックアップする「シネマの女は最後に微笑む」第23回は、ジェシカ・チャステイン*1主演の『女神の見えざる手』(2017)を取り上げてます。銃規制をめぐる敏腕ロビイストの暗躍を描くサスペンス。


何のために働き、闘うのか? 非情なまでに信念を貫くロビイスト-ForbesJAPAN


女神の見えざる手 [Blu-ray]

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間然とするところのない展開に驚くべき仕掛けが施されていて、一回観ただけでは細部がどう連関していたのかよくわからないところもあり……私はDVDで2回観ました。


この作品は、ジェシカ・チャステインが演じる主人公のキャラで、半分以上成功しています。
仕事に生きるキツめの女はこれまでたくさん描かれてきましたが、ヒロインに見え隠れする”歪み”については、恵まれない生育環境とか親との確執とか隠されたコンプレックスとかジェンダー的な社会背景など、何らかの要因が匂わされていました。それをまったく描かなかったところが新鮮です。「言い訳」がないのです。
従って観る者は、彼女の若干”黒い”側面をそのまま受け取るしかなくなります。そこも含めて魅力的な人物造型に成功しているところが面白いと思いました。

*1:文中、「チャスティン」になっていますが正しくは「チャステイン」です(編集者に修正要請中)。

育ちのいい小金持ちマダムをベタだが爽快に演じて成功(「シネマの女は最後に微笑む」更新されました)

現代女性の姿を映画からピックアップする連載「シネマの女は最後に微笑む」第22回は、『しあわせの隠れ場所』(2009、原題はThe Blind Side)を取り上げてます。


困った人がいたら助けること 行動派セレブマダムの自信と誇り| ForbesJAPAN


しあわせの隠れ場所 [DVD]

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アメフト選手マイケル・オアーのノンフィクションに登場する、彼の里親になった女性にスポットをあてた良作ですが、前回に続いて「背中が痒くなる邦題のついた洋画」です。安易に「しあわせの〜」で始まるの、多過ぎると思いませんか。



お金持ちで、夫は物わかりが良く、子供はいい子たちで、共和党支持者で、全米ライフル協会の会員‥‥。個人的には一つも共感要素がない女性リー・アン・テューイを、厭味なく演じたサンドラ・ブロックがなかなか良いです。ちょっと大味なところが苦手な女優でしたが、これは彼女の持ち味が活かされている、というかサンドラ・ブロックのための映画と言ってもいい。
こんな「善行」など白人の贖罪意識からじゃないか?とか強者だの弱者だのごちゃごちゃ言ってる間に、目の前の困った子供を助けるべきよ!(私たち金持ちは!)‥‥というメッセージもシンプルです。一見鼻につく偽善が本物になっていくところが、まあすごいですね。


細かいカットで書きそびれたことを一つ。
マイケルがテューイ家に来た夜、リビングテーブルの上に、ノーマン・ロックウェルの画集がいかにも!な感じで置いてある。表紙は、感謝祭のダイニングテーブルに揃った幸せそうな白人家族。 かつて「The Saturday Evening Post」の表紙を飾ったものと思われます。
奇しくも翌日は感謝祭。昔の慣習とは違い、テレビでアメフトの試合を見ながらそれぞれ好きなポジションで料理をパクつくテューイ一家と、一人ダイニングテーブルについたマイケル。それを見たリー・アンは家族を同じテーブルに呼び、手をつないで感謝の祈りを捧げるよう促す。登場人物がロックウェルの絵とよく似た構図になる。もう、いかにも!です。
この映画が今ひとつ「軽い」感じがするとしたら、細部の回収がベタでわかりやす過ぎるというところかもしれません。でもサンドラ・ブロックの演技を見るだけでも楽しいです。

ヒロインとともに旅する映画『わたしに会うまでの1600キロ』(「シネマの女は最後に微笑む」更新されました)

映画から現代女性の姿をpickupする「シネマの女は最後に微笑む」第21回は、リース・ウェザースプーン主演の『わたしに会うまでの1600キロ』(2014、原題は『Wild』)。メキシコ国境からカナダ国境に至る長距離自然歩道を、一人でハイクした女性の実話が元になっています。


大自然の中の過酷な旅、過去を生き直す女性の実話 | ForbesJAPAN



過酷なハイクとヒロインの「生き直し」が重ね合わされている本作、とってつけた感じのするライフハック(?)みたいな邦題は、個人的にちょっと残念ですね。
これがネックになって劇場でも観なかったし、DVDもずっと避けていたのですが、R.ウェザースプーンが自ら会社を作って制作を手がけたということを知り、観てみました。シェラネバダ山脈などをはじめとして、アメリカの雄大な自然の景観の移り変わりがすばらしく、大画面で観ても良かったなと思いました。


印象的なエピソードがひとつひとつ積み上がっていく中で、観る者はヒロインと一緒に旅をしている感覚になります。そして最後に彼女が受け取る、とてもささやかだけれど思いがけない贈り物を、私たちも受け取ります。その「尊さ」に鳥肌が立ち、涙が出ました。
辛い場面もありますが、見終わった後、不思議なすがすがしさに包まれる本作を通して、R.ウェザースプーン、いい女優だなと改めて思いました。