化粧する子供たち

女子の雑誌世界

小学生の間に化粧が流行り出したという話を耳にしてから、随分たつ。
調べてみると、バンダイが小学生低学年対象のメーク用品を売り出したのは92年で、それに続いて大手化粧品メーカーもローティーン向けの化粧品を売り出し、コンビニのコスメも小中学生にウケているとか。
が、私はまだその実態を目撃したことはない。住んでいる地域が大都市ではないからかもしれない。家の前をよく小学生が分団登校で通るのでそれとなく観察しているが、見たところみんなスッピンである。


学校行くのに化粧なんかするわけないだろう? 確かに。
しかしローティーン向けのオシャレ情報雑誌「ニコラ」では、 「ナチュかわ*ガッコーメイク」なんて記事があるのである。リップグロスはもちろんのこと、チークやマスカラ、ネイルカラーなんかが、普通に紹介されている。
ガッコー以外の遊びの場所向けの「アフタースクールメーク」なるものもある。
思わず、仕事の終わったOLが会社のトイレでデ−ト用のメークをするみたいに、小学生が学校のトイレでランドセルからポーチを出して化粧直しするところを想像してしまった。


小中学生のおしゃれや化粧を奨励、推進したと言われる雑誌「ニコラ」。創刊は97年で、当初はメーク記事はなかったが、読者からの要望が多く、2001年から毎回記事を組むようになったらしい。
ニコラのモデルは女の子の憧れの的であり、ニコラ読者のアイドルはモーニング娘。の辻と加護。特に低学年の女子には、加護ちゃんの着ている服のブランドが大人気。テレビのアイドルの低年齢化と彼女達の派手なファッションやメークが、女の子達に絶大な影響を与えている。
ニコラの読者交流会では、まるでデパートの化粧品売り場のカウンターのようにメークコーナーが設けられ、行列ができるほど盛況なのである。
10月号は「ブランド・ランド34」としてブランドものの特集である。「本気ぼれブランド秋物速報」「テイスト別・なりきり!!ブランドセレブ」「渋谷109系対決!」‥‥。その他は「秋肌トラブル☆カンペキBOOK」「秋のサラ2ヘアケア☆寝ぐせ直しテク」「純愛は韓国ドラマ&映画に学べ」‥‥。


言っときますがCanCamでもJJでもないですよ。驚くのはまだ早い。メークとヘア特集は雑誌「小学六年生」でも、だいぶん前からやっていたというのである。
それで今出ている「小学六年生」11月号を調べてみたのだが、そのコーナーはもう終わっていた。その代わり「プチレディのたしなみ」というマナー特集があった。言葉遣いに気をつけようとか、エレベーターに我先に乗るなとか、スーパーやデパートで大声を出して走るなとか、食事のマナーとか。
なぜ女子だけに、そういうことが説教されねばならないのか?男子、いやプチジェントルマンにはそれは必要ないのか?という疑問はもちろんない。


しかし「小学六年生」なんて一生見ないだろうと思っていたが、いろいろと発見があった。
記憶と辿ると、女の子向けのファッション記事みたいなのは昔も少しあったけど、半分以上は男女共通の記事だったように思う。しかし今は、男の子向け記事(ゲームとスポーツ)と女の子向け記事(いわずもがな)の色分けが、かなりはっきりしている。そして全体として、女の子の方にちょっと傾いている印象を受ける。
11月号で言うと、まずカラーグラビア「キティちゃん30周年おめでとう!」。同じくカラーの「韓国大百科」は、ファッションやコスメやタレントの紹介記事が目立つ。
だいたい今の韓流ブームって、日本ではおばさん達の「冬ソナ」フィーバーから火がついてるんであって、小学生の興味とどうリンクするのか?と不審に思ったのだが、韓国の人気アイドルグループSugerが、小学生の女子に人気ということだった。表紙もSuger なのである。


「学習雑誌」と銘打っているが、それより大きく印刷されているのは「最上級生のためのカルチャーマガジン」。その中身に「学習」はほとんどなくなっていた。
映画の紹介はあるが、本の紹介はない。そもそもそういうコーナーがない。「LOVE論」という「恋愛相談」(コクったのコクられたのというやつ)のコーナーはあるが、性教育はない。時事記事ももちろんない。読者のお便りにはやたらとハートマークが多い。はっきり言って、なんか気持ちわるい。

セックスの準備

こういう雑誌では飽き足らない女子が、ニコラを買うのだろう。ファッション、ヘア・メーク、マナー、芸能、キャラクターグッズ、話題の映画とゲーム。これが、日本の小学生の女子の「カルチャー」世界である。女性セブンの内容と80%くらいかぶる。
渋谷の小学生女子監禁事件とか、佐世保の事件とかの背景をつい思い浮かべてしまうが、流行情報やタレント情報に通じてないと、仲間はずれにされるという世界があるのだろう。
都市の小学生の女の子にとって、ファッションやヘア・メークは避けては通れない必須科目なのか。


こういう雑誌の読者が通っている小中学校でも、ジェンダーフリー教育に取り組んでいるところはあろうが、そこで女子の化粧はどういう扱いなのだろうか。
というか、ジェンフリ教育はニコラやモー娘。の絶大な影響をどう考えるのか。まさかシカトするわけにはいくまい。苦戦が強いられると思われる。


私の姪は横浜に住んでいる小学五年生である。私立の一貫教育の学校に通っているが、ニコラの影響はいかがなものかと思い電話で聞いてみたところ、ちゃんと知っていた。
しかし学校も親(私の妹)も厳しいので、顔に塗るものは日焼け止めクリームとリップクリームだけ。ファッションは親の方針で、流行には乗らず派手でない上品なもの、もちろん渋谷に友達と遊びに行くなど御法度とのことだった。アイドルにもブランドものにもそれほど関心はないらしい。今のところ、親の教育方針に大人しく従っているようである。
かといって、小学生のうちから化粧をする子供は、親に従っていないということではない。母親がそれを容認、あるいは奨励しているのだ。
子供にお小遣いを与えるのは親であるから、子供がどのような消費傾向にあるのかは親も知っているだろう。だが小学生のお小遣いはせいぜい2000円程度だろうから、結局ほとんどは親と一緒に買い物に行き、親が(子供の求めに応じて)買い与えているということである。


小学生と化粧について調べていたら、こんなデータがあった。化粧反対派が圧倒的に多く、理由の一位は、「肌に良くない」で、その他は「素顔が一番」「子供らしくない」「不自然」というものだが、今一つ決定的ではない。
「肌に良くない」し「素顔が一番」なのに大人はしているし。まあ「子供が化粧なんてまだ早い」というところだろう。
賛成派の筆頭は「自分をキレイに磨くのはいいこと」。後は言わば、度が過ぎなければという条件つきでの賛成である。
子供に「お母さんはしているのに、なんで私はいけないの?」と言われて言葉に窮したのか、ちょっと試しにしてみたらすごく可愛かったので容認してしまったのか、とにかく「女の子らしく育てたい」ということなのかわからないが、「キレイ」がすべての価値のトップにくるという、今の価値観をよく表している。


バブル期に青春時代を過ごした母親は、自分を松田聖子に見立てているのかもしれない。アクセサリーとしての子供から、子供と姉妹のような親子へ。
中には今から化粧を躾けて、ゆくゆくは芸能界デビューを狙うという親もいよう。小学生では化粧ダメでも、中学生になったら許すとか、高校生なら仕方ないだろうという親は更に多そうだ。
私が初めて化粧をしたのは大学で教育実習へ行った時だったが、隔世の感があると言うのも今更な感じである。
大人の文化と子供の文化、芸能人と一般人の境目というものが、ほとんどシームレスになっている。


私にしてみれば、生理が来るよりマスターベーション覚えるより、恋愛やセックス体験するより、メークをまず先に覚えるというのが、なんだかよくわからない。
若い女の化粧とは、心身共に恋愛、セックス可能であるというサインである。小学生でもそう看做されるのである。看做されないのは、テレビのスタジオや舞台に立っているローティーンのタレントだけ。
化粧した同級生を見て、男の子は引きまくるだろう。だってまだセックスの準備ができてないんだから。


友人の息子は小三だが、小一以来久しぶりに会った仲良しだったボーイッシュな女の子が、著しい変貌を遂げていてショックを受けたそうだ。
チャパツにパーマの見かけばかりではない。彼女にもらった手紙には、「○○くん、私のことまだ覚えてた?わたしは覚えてたョ(はあと)」といった気色悪い文句が並んでいたとか。
「もう友達は男でいい」と彼は言っているそうだ。