ラッセン・メモ - ラッセン以前の"ラッセンなるもの"

昨日「線を引く」話を書いたが、早速自分の鼎談発言と響き合いそうな言葉を見つけたのでメモ。

brainparasite art, 書籍 ラッセンの嘘臭い絵、自分の中では少年誌の未来絵図や軍艦断面図、大河原邦男ガンダムアート等の延長に見てるので、割と好きなんだよなー。 2013/07/11
http://b.hatena.ne.jp/brainparasite/20130711#bookmark-153579226


そう、それです。軍艦断面図や大河原邦男には言及していませんが、鼎談で子ども向け雑誌の「未来絵図」と科学雑誌に触れました。一部引用。*1

大野 […] そのスーパーリアリズム風の絵を、ラッセン以前に美術ジャンル以外のどこかで見たことがあったな‥‥と思い出したんです。これは、昔出ていた『クォーク』と『アニマ』という科学雑誌(それぞれ90年代に休刊)です。『アニマ』(一九八七年七月号)の表紙は嶋田雅一、『クォーク』(一九八七年八月号)の表紙は渡辺富士雄、その特集のクジラの絵は遠藤俊次というイラストレーターです。いずれもラッセンを彷彿とさせますが、八七年ですからラッセンが日本で本格的に売れ出す直前なんです。
[…]
 私は一九五九年生まれなので、六〇年代はほぼ子ども時代なんですが、当時の学習図鑑とか子ども向けの科学雑誌などにも、この手のファンタジー系リアリズムの絵があったのを覚えています。小松崎茂石原豪人といったイラストレーターです。小松崎茂さんは未来都市のような絵を描かれていまして、こんな風に禍々しい作品とか‥‥、これは「イルカがせめてきたぞっ」という絵です(笑)。[fig3]
 これらの作品は細部がすごく魅力的なんですね。こういうものを私も子ども時代、じっくり見ていた記憶があります。ドラマチックな絵柄と細かい描写に感心していました。ラッセンの作品にも、その辺の琴線を揺さぶるものというか、同じような引力があったんだと思います。[…]


ラッセンとは何だったのか? - 消費とアートを越えた「先」』p.32〜34


鼎談で雑誌を広げた時、「ラッセンだ‥‥」という声が上がりました。書籍にはその時の写真が小さく載っていますが、雑誌の絵はあまりよく見えないので改めて撮ったのを掲載しておきます。
『アニマ』(1987年7月号) 表紙イラストレーション:嶋田雅一
クォーク』(1987年8月号) 表紙イラストレーション:渡辺富士男
クォーク』(同上) 特集ページ・イラストレーション:遠藤俊次


ラッセンのような過剰さには欠けますしイルカでもないですが、かと言って普通の「図鑑の絵」でもなく、ファンタジックな味付けがしてあるところがおもしろい。嶋田雅一氏の絵はこの後、ファンタジー要素が加速していきます。氏の作品は以下のサイトにまとまっています。
http://www.asahi-net.or.jp/~gs4k-smd/


(ちなみに、美術にどっぷり浸かっていた私がなぜ四半世紀も前の科学雑誌なんか持っていたかというと、実は夫のです。『アニマ』はともかく『クォーク』はちょっと下世話な記事(いかがわしい性科学とか)もあったけれど、夫は予備校の講義のネタ探しもあって購読していた模様。まったく専門分野が違うため互いにほぼノータッチだったのですがこんなところで関係してくるとは思いませんでした。。)


●追記
ラッセン」で検索していて見つけたラッセン論。特に3の美術史的アプローチが面白い。
ラッセンについて考え始めた。|美術作家 白濱雅也の関心事
ラッセンについて2 カジュアルアートは現代の宗教画か?トーマスキンケードを見て|美術作家 白濱雅也の関心事
ラッセンについて3 ラッセンはマリンアートのゾンビかフランケンシュタインか。|美術作家 白濱雅也の関心事

フリードリヒとの関連性はラッセンの描く断崖絶壁や光の表現で感じていたが、マリンアート(海洋絵画)の伝統に見出されるキリスト教の世界観にロマン派とニュー・エイジやスピリチュアルが混じった流れが、日本でこれだけウケているということも興味深い。この続きもあるようなので楽しみです。

*1:鼎談では中ザワヒデキ氏は主に制度論、暮沢剛巳氏は事象全般を広く、私は受容論を中心に喋っており、引用発言は「日本人はラッセン以前にラッセン的なものを知っていた」という主旨。