「シネマの男」第14回は「お父さんなんかじゃない」と言われた男の罪と罰を描く『鬼畜』

ForbesJapanで好評連載中の「シネマの男」第14回は、野村芳太郎監督、緒方拳主演の『鬼畜』を取り上げています。我が子殺害(未遂)に至る「父の弱さ」に焦点を当てました。

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松本清張原作シリーズの中でも、高い完成度を誇る本作では、岩下志麻が演じる妻・お梅の薄情を通り越したコワさがよく話題になりますね。

しかし妾の菊代(小川真由美)の、ちょっと得体の知れないところもジワジワ不安を掻き立てます。彼女は宗吉(緒方拳)の子供だと言っていますが、それを保証するものは何もありません。
男にぶら下がってしか生きていけない彼女は、他にも「旦那」がいたかもしれない。その中で、一番人の良さそうな宗吉を掌で転がしていたかもしれないと思わせます。

一方、お梅は宗吉に対して愛はあるものの、一頃のようには商売もうまくいかなくなっていてイライラしがちだったところにもってきて、妾と隠し子の存在を知り、一気に「鬼」と化す。

それぞれ支配型の女の間に挟まれた宗吉という男の凡庸さ、人間としての弱さ、どうしようもなさが、残酷なまでに描き出された傑作です。
ぜひご覧になった上でお読み下さい。

 

 

野村芳太郎松本清張シリーズでは、桃井かおり×岩下志麻の『疑惑』も傑作ですね。映画批評集『あなたたちはあちら、わたしはこちら』で、主に岩下志麻の役柄を論じています。
本書で扱った映画のイラストは、こちらのページから全部閲覧できます。

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