この国はもう滅ぶのでこのへんに柴犬だけの国を作ろう

 

飼い犬タロになっているつもりで詠む「犬短歌」、2023年上半期の歌です。
まあまあのも今ひとつのも全部上げました。気に入ってる歌の最後には*マークをつけてます(/サキコとあるのは私名義の歌)。俳句も少々あります。

 

◆ 一月

神様がスポットライトを気まぐれに誰かに当てる平らな世界

何千という始まりの朝迎え最後の朝に終わりへと跳ぶ *

凍てついた僕らの冬を溶かそうと蝋燭の炎色の薔薇咲く

おばさんが良い出汁とりたくなるように良い土見ると俺は掘りたい

猫二匹ふぐりを冬の陽にあてる

甘噛みは暴力じゃない信頼を試してるだけもっと噛ませて *

微生物たちがそわそわ騒めいて石が湿ってもうすぐ雨だ

晒し首みたいに残った白菜が一列小春日和の畑 *

無を閉じ込めた鉄柵に冬光る

すっぱりと頭切られた大根の面の白さよ土の黒さよ

寒波前 野薔薇は花も葉も赫く

寒波だよ寒波が来るよと怖がってないで今すぐどっかに逃げよ

マフラーの色が厭ではないのですマフラー自体いらないのです

あの猫は小悪魔 興味なさそうな目をして俺をじっと見ている

蓮根は回転式のシリンダー 銃と弾だけ今ここにない/サキコ *

この冬も生き延びたりと老猫は擁壁上で髭を光らせ


◆ 二月

俺が糞ひねり出すときヨイショ言うおばさん一緒にりきんでるのか

自転車の子供が父を追い抜いて凱歌をあげるもうそこに春 *

覚えてておくれ短歌を詠む犬がいたことタロと呼ばれてたこと

「おばちゃんは仕事だから」で消える人 犬と遊ぶよりいい仕事とは

梅の香と違う匂いだコンビニでさっき買ったの何だプリンか

雨冷えや大根の吐く息白くビニールトンネル曇らせており

あのひとが留守の間はタロをやめ犬さえやめて休んでるのさ

解放と武装の境目を縫ってゴスロリ少女田園を行く *

ひね生姜捻くれ者にて広縁で干からび刑か酷い話よ

如月の空をキラキラ早春のかけらに変える赤子の声よ

角曲がるたびに同志の呼ぶ声がする蜂起まであと少し待て

小糠雨スマホ画面に虹色のラインストーンの七つ八つ落つ/サキコ

いま猫がニャアゴと言ったどこにいる世界の裏で鳴いているのか

飯出してあたふた立ち去るおばさんよ俺はいつでも孤独のグルメ


◆ 三月

あの空に何か忘れてきたような気のする春の月のはじまり

太郎展行っておいでよ戌年のダンナを散歩させておいでよ

畑の中キャスター付きの椅子押して老女はふうわり弥生の空へ *

カップ麺初体験でほころんだ母に八十五年目の春/サキコ

あの人が桜の開花見たいから今日も散歩はおんなじコース

万物が解ける春だよ絵にされた犬の魔法もそのうち解ける

赤い花食べた小鳥は赤くなり花のかわりに枝に止まるよ

生きものを励ます声の空高く雲雀は朝のパーソナリティ

『幸せの黄色いハンカチ』ラストシーン思い出す花盛りのレンギョウ/サキコ

レンギョウが今年も咲いて春が来て笑う彼女は切りたての髪 *

俺を見て四つ足歩行になった子よ ケモノの頃は楽しかったか 

雨の中とぼとぼ歩くぼくたちに雨もとぼとぼとぼとぼと降る *

それぞれが読書に耽る雨の日の静けさ 独り前脚舐める

家一軒無くなったとき縁側の下は残るの無くなってるの


◆ 四月

今ここでそのパソコンを破壊する力はあるが今日はやめとく

イーロンに告ぐ柴犬は鳥じゃないツイーと囀るあのロゴ戻せ

生きものの香りのコロン春の泥 鼻にちょっぴりつけて洒落込む

一区画ぐるぐる走る自転車の少年細い肘は鋭角 *

猫のいる場所が世界の中心さ 犬はまわりで吠えているだけ

広告でヒトは窒息して犬は匂いに包まれ深呼吸する

狂犬病注射の前に狂犬に

狂犬が人に噛みつくなら人は狂って何に噛みつくんだろ

鉄線花咲け俺も咲け太陽を喉まで浴びて全開になれ

退屈な午後は地面に顎乗せて彼女のかざすスマホ無視する

横顔を見せて吐き出す紫煙まで特別だったあの日の君は/サキコ *


◆ 五月

ヤングという名の鉄線は大人色 中年犬の初夏に合う色

綻びを赤い糸にて飾りつつ母は痛みを縫い留めており/サキコ

雨止まぬ闇夜にひとつ身震いし老母の病みの止むこと願う

目に涙溜めて笑顔を作ろうとするな泣きなよそのあと笑え

枝さらさら暖簾ふうわり猫ごろり下駄がカラコロ犬はくんくん

晴れの日は穴掘り雨の日は穴でくつろぐそれが俺の実存 *

腰痛は草に寝転び治します草が痛みを取ってくれます

固まったハチミツの瓶湯煎して母の痛みがほどけゆく朝/サキコ

この国はもう滅ぶのでこのへんに柴犬だけの国を作ろう *

柴犬の国にはおやつ一年分献上すれば入国許可す

我が国は「首輪持たない、作らない、持ち込ませない」破れば死刑

我が国のどこにおいても柴犬は自由に穴を掘る権利あり

我が国でいかなる時に遠吠えをしても黙れと言う者はない

分け入っても分け入っても青い草/犬頭火

人参の根を一本と決めたのは誰たくさんの方が楽しい


◆ 六月

あの犬に朝の挨拶したいからおばさん先に帰っていいよ

六月の青く荒ぶる風避けて水筒の水分けあう僕ら *

ヒメジョオン越しに君見て雨粒の味に明日の運を占う

綱渡りしている人よセーフティネットは君の前にいる犬

猫よその日陰は君のものじゃない俺と彼女がくつろぐところ

このまんまどっかに行ってしまおかと思いつつまた帰ってきたね *

黒猫を見たらいいことあるということ思うのがきっといいこと

草むしる指から逃げて転がって王蟲の子どもシダの林へ

おじさんは鯵を三枚に下ろしておばさんは何下ろすの?おじさん?

新しい鎮痛剤は夜二錠「ほやしゅみなしゃい」と母床に就く/サキコ *

神様のお話聞いてと来る人にうちは柴犬教と伝えよ

 

※これまでの犬短歌は以下です。

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