後回しのツケ

恐ろしい草むしり

今週で専門学校の仕事も終わった。来週二日ほど別の仕事の日があるが、それが済んだらこの上半期の仕事はおしまい。
専任の先生は何かと登校日があるようだが、私は学生と同じである。学生が授業に来れば行って、来なくなれば行かない。だから九月下旬まで夏休みだ。わーいわーい、遊ぶぞー。
‥‥てなわけには残念ながらいかず、やらねばならないことがいろいろある。


そのうちで最も気が進まないのが、家と裏の水路の間の通路、約50センチ×20メートルくらいの土地に生えまくっている、雑草むしり。
水路を挟んだ他の三軒の裏の通路はきれいになっているのに、うちの裏だけ草ボーボー。大変恥ずかしい。自分ちの敷地ではないのだが、たまにその水路の掃除があるので、通路をきれいにしとかないと誰も通れない。にも関わらず、5月半ばに草むしりをしてから除草剤を撒くのを忘れ、そのままほったらかしてあったのだ。


いや除草剤は買ってある、前の草むしりをした段階で。だが明日やればいいと一日延ばしにしていた。
草が30センチくらい伸びているのが家の前の通りから見えた時、今のうちに取って撒かなきゃ‥‥と思ったのは覚えている。しかし思っているうち、とうとう梅雨に入ってしまった。
草は雨水を十分摂取して、50センチくらいに伸びていた。ああヤバいヤバいと思いつつ、忙しさにかまけてまた先延ばしし、そのうちそこを見るのが怖くなった。
こないだおそるおそるチラッと見ると、ゆうに腰くらいまではある青々した草の間から、私の背丈くらいはあるセイタカアワダチソウが、何本もニョキニョキと生えていた。抜けるものなら抜いてみろ!といわんばかりの雑草の生命力。
いっそ思いきってこの夏の間は無視を決め込んで、秋になって草の生命力が低下してきた時に抜くのが賢明なのではないか。今日も昼間の気温は35度を超える猛暑だ。こんな中で草むしりなどやったら、倒れてしまう。


実際に倒れかかったことがあったのである。私ではなく夫が。
何年か前の夏の盛りに、約半年ほど放置していた草むしりを一緒にやり始めた。水路掃除の前日である。しかしハンパな草の量ではない。手でちまちま引っこ抜いていてはとても追いつかないので、腕にがばっと抱え込んで踏ん張って抜く。しっかり根を張った草はなかなか素直に抜けない。ほんの20分くらいで夫は、炎天下の野良犬のようにゼエゼエと息を荒げ、
「うう気持ちわるい。目眩がする」
と言って家の中に引っ込んでしまった。
少しして様子を見に部屋に入ってみると、タオルを顔に乗せて板の間に転がっていた。中高と野球部で活躍し、海を沖まで何キロも泳げる人とは思えない体たらくである。
「頼む(ハアハア)、草むしりは(ハアハア)、お前がやって(ハアハア)、二千円あげるから」。


仕方なく、お金をもらって残りは私がやった。大型ゴミ袋15個分くらいの草が出た。
そんなことがあって、定期的に除草剤を撒かねばと決心したのだが、そういうことはすぐ忘れる質である。そして伸びるだけ伸びさせて、後で苦労をする。こんなことをこれまで7、8回している。
どうして学習できないのだろうか。やりたくないことはとことん後回しにする、という悪い癖。一種の性格的な欠陥かもしれない。

やりたくない仕事

それで思い出したが、私は小学校5年の頃、給食の配膳台を掃除する係をしていた。掃除と言っても、汚れた台を雑巾できれいに拭くだけである。
これを私はしばしば忘れた。宿題や教室の掃除当番や班長会を忘れたりしたことはほとんどなく、どちらかというと義務感が強い生徒だったのに、その台拭きだけはなぜか頻繁にやり忘れ、担任にひどく叱られたことがあった。
係だからやらねばならないという気持ちはあるのだ。自分でもどうしてうっかり忘れてしまうのか、わからない。きっと内心、すごくやりたくない仕事だったのだと思う。


大人になっても、授業の成績表を提出するのは、大抵締め切り日である。それまでに出来ていても持っていくのが億劫。別にギリギリで出しても同じだなと思うと後回しである。
しかし後回しが私よりひどいのは、夫だ。家でやらねばならない宿題仕事がよくあるようだが、大抵ギリギリまでしていない。
「来週までにテキストの問題三問作らないかんな。今日は月曜日だな。よし!じゃあ明日からだ」
と、誰も訊いていないのに言っている。火曜日の夜になると
「あとまだ5日あるな。よし!木曜からでもじゅうぶん間に合う。今日はテレビを見よう」
木曜はもちろん何もせず、金曜になると
「だいぶ追いつめられてきたな。よし!土日に勝負を賭ける」
こちらは「仕事大丈夫?」なんて一言も尋ねていないのである。なのに、わざわざ口に出して、それもすごくはっきりと言っている。普通心の中だけで呟くのではないか?そういうことは。


「それは誰に向かって言っているの?」
と尋ねると、
「自分に向かって言っている」
「私がいない時もそうやって、いちいち独り言言ってるの?」
「いや言わん」
おかしいじゃないですか。他人がいる時だけ、独り言言うとは。
つまり、人に聞いておいてもらいたいのではないか。自分の心の中だけで呟いても、後回しにしているというプレッシャーから逃れられないので、わざわざ口に出して人を勝手に"証人”にして、"承認"を取りつけた気になりたいのであろう。
承認も何も、私が頼んだ仕事ではないのだから無意味なのだが。


「ギリギリだと大変じゃない。先に済ましてしまえば気が楽なのに」
と、自分のことを棚に上げて言ったことがある。しかしやりたくないことは、ギリギリまで延ばしたいのだそうだ。やりたくないことをイソイソとやるのは、嫌なんだと。
それで土曜は朝から
「さーあ、タイムリミットが来たぞ。今日は徹夜だー」
と何回も言ったあげく、
「その前にちょっと喫茶店でも行ってこよう」
と出かけて夕方まで帰ってこず、夕食後は
「7時か。よし!12時からが勝負だ」
それでも間に合うなら別にいい。というか、間に合わせないことには仕事にならないし。


草むしりは、どこまで引き延ばしたらもう間に合わないレベルかが、よくわからない。しかしこうしている間にも、草はぐんぐんと育っている。だから明日にもやらねばならない。明日も暑いだろうなあ。
‥‥よし!お盆過ぎたらやることにしよう。
と、声に出して言ってみた。