『エコール』 - 無知で無垢な少女の行く先

エコール [DVD]

エコール [DVD]

ポスターを見た時から気にはなっていたが、今頃やっとDVDで見た。内容紹介等はamazonを参照して下さい。レビューも既に40件あり賛否両論という感じだが、私はダメだった。
本来こういう設定は大好きだし、謎が謎のまま放置されているのも気にならないし、映像もそれなりに美しい(絵画的な意味で)が、全体に薄い。エロスも残酷さも不気味さも薄い。まるできれいな紙芝居を見せられているようだった。イメージ映像としてなら優れている。


思春期前期の少女の不安というモチーフは、特に珍しいものではないだろう。だがそれを象徴するものや性的な隠喩があまりに定型的に描かれていたり、少女達の身体へのフェティッシュなカメラワークなど、いかにも計算尽くな感じがありありでやや鼻白んだ。
この作品についてよく言われる「幼いエロティシズムが云々」には、まったく同意できない。その手のものが好きな人には結構たまらんものがあるのかもしれないが、個人的には興味なし。
一部でロリコン向けだのチャイルドポルノだのと言われてしまうのも、単に幼女や少女のヌード、半ヌードがふんだんに出てくるだけでなく、「どうしてもこのアングルから撮らないといけないのか」というシーンがあるからだろう。
そういう見方を邪道として退ける人は、謎めいた雰囲気や少女達のあどけなさや幻想的な映像美を褒めるのだと思うが、私にはアートっぽいスパイスを振りかけた思わせぶりな大人の少女趣味に見えてしまった。最後の噴水のシーンなんか狙いが見え過ぎで、蛇足もいいとこだ。


フランク・ヴェデキントの原作は読んでいないが、見始めてすぐ金井美恵子の長編詩「<春の画の館>抄」を思い出した。深い森の中の寄宿舎のような館。どこからともなく連れてこられる少女達(こっちは少年達もいるが)。制服のような白い衣装。厳しい規律。柩。共通点がいくつかある。
ただ、金井美恵子の詩の方は、性的倒錯と残虐性が全面に出ている。バタイユの『眼球譚』など思い出してもらえば、近い雰囲気がわかるだろう。書かれたのは70年代の初めだと思うが、『金井美恵子詩集』(現代詩文庫55、思潮社)でこれを読んだ17歳の私にとっては強烈な世界だった。


収穫は、脚の悪い生物の先生役のエレーヌ・ドゥ・フジュロールが、かなりエロかったこと。
長い髪を無造作に後ろで束ね、白いブラウスとミディ丈(より長いかな、ミモレ丈)の黒いスカートというちょいダサなファッションも良いし、高めヒールのパンプスに杖をついているので、歩き方が妙に艶かしい(脚は少女時代に脱走を試みた罰として折られたという噂)。バレエの先生との関係は明らかに同性愛を思わせる。オードリー・ヘップバーンシャーリー・マクレーンが演じた『噂の二人』を思い出した。
あとは、バレエの先生が少女達に告げる「服従が幸福への道なのです」というセリフ。
この作品が、「女」になる前の少女達に深い諦観を叩き込み、無知のまま無垢な外観を保たせ、最後によりいっそう残酷な外の世界に送り出すジェンダーシステムの寓話として描かれていることは明らかだが、先生、あまりにもベタにものを言い過ぎです。


美少女達、先生、寄宿舎、謎が謎のままで終わる物語としては、『ピクニックatハンギングロック』を挙げておきたい。1900年頃にオーストラリアで実際に起こった少女失踪事件を元にした佳作。