暑い日

お暑うございます。
暑い日は、あまり戸外を歩きたくないものだ。しかしうちから小さな最寄り駅までは15分かかる。自転車も暑い。それで最近は横着して乗り換え先の大きめの駅のすぐ近くまで車で行き、露天の有料駐車場(40分100円、一日800円まで)に停めてから、名古屋方面の仕事に行くことにしている。


今朝は、普段は私より遅く出る夫が、早く行って授業(予備校)まで仕事しているということで、車に同乗した。終わるのが私の方が2時間ほど早いので、帰りは一人で車で戻り、後で夫を駅まで迎えに行く算段。
駐車場近くまで来て夫が突然「しまった、携帯忘れた」と言った。「今から戻れんか?」「私、遅刻しちゃうよ」「困ったなぁ」。駐車場に入れてから「やっぱり取りに行ってくる」と夫。
ところが彼は予備のキーを持ってきてない。私のを渡してしまうと、帰りの早い私が車で帰れなくなる。


「どこかにキーを隠しとく」「どこに?」「どこにしよう」「車輪の内側は?」「それはまずい」「あっ、ナンバープレートの裏は?」「ちょっと。大きな声を出すなて」。二人して車の周囲を中腰でうろうろしているのを、犬を散歩させてる人が変な顔で見ていった。
こんなことしてたら電車に乗り遅れてしまう。ふとセロテープがバッグの中にあったのを思い出し、「これでどっか見えないところに貼っといて!」と渡して、駅まで走った。


さて、夕方仕事が終わり、駐車場に戻ってきた。えーと、どこにキーを貼り付けたのかな? しゃがみこんでタイヤの内側を覗いてみたがない。ナンバープレートの裏にもない。お昼休みに電話して聞いとくべきだった。今かけても授業中なので出ない。
掌で車体の下側を触って探すことにした。車体は熱せられてチンチンだった。前の方からそろそろと手探りしながら中腰で移動していく。暑くて汗がダラダラと流れ、サングラスが鼻先までずり落ちてきた。露天の駐車場に車は7、8台しかなく、私の姿は周囲の道路から丸見えだ。早く見つけねば。


駐車場の外に自動販売機があって、夏休みの部活の帰りだろうか、男子高校生が4、5人溜まっていた。ジュースを飲みながらこっちを見ている。いやあの、これ私の車だから。キー探してるだけから。怪しいもんじゃないからね。
車を半周して、ようやく見つけた。やれやれ。ピッとセロテープを剥がしてジーンズのポケットに突っ込み、灼熱地獄と化した車内に入り、エンジンをかけてエアコン全開にして窓を開けて発進したとたん、ダッシュボードに置いてあった駐車券が、風で窓の外に飛んだ。


降りて探す。見当たらない。おかしいな。すぐ後ろあたりに落ちていると思ったのに、どこにも見当たらない。一旦元の位置に車を戻して改めて周囲を探したが、ない。他の車の下にでも飛ばされてしまったのかと思い、アスファルトに手をついて一台一台覗き込んで探してみたが、まるで消えてしまったかのようにない。
これは何かの罰ゲームですか? だんだん腹が立ってきた。無人の駐車場で不審な行動をとり続けるサングラス鼻眼鏡の私を、まだ高校生が見ている。こっち見るな。夕陽が嘲笑うかのようにジリジリ照りつける。照りつけるな。泣きたくなってきた。


15分くらいして諦めた。きっと今日はついてない日なんだ。それにいい加減暑過ぎる。いい大人がいつまでも炎天下の駐車場に這いつくばってるものじゃない。
ノロノロと精算機のところに車を移動させ、「駐車券を紛失した場合は下のボタンを押してください」のボタンを押し、2500円を払って出た。1700円の損失。悔しい。それにしてもこの車はエアコンの効きが遅いわ。早く帰ってシャワーを浴びてビールを一杯‥‥、ああダメだ。迎えがあったわ。くそう。


約2時間後、夫を駅に迎えに行った。助手席に座ろうとした彼は「なんだこれ?」と座席とドアの間から小さな紙切れを拾い上げた。
駐車券だった。