養老の滝の二人

数日前、ふらりと養老公園に行った。高速を使うと、家から40分くらいで行ける。
養老山麓にある公園は広く、荒川修作の「養老天命反転地*1を初めテニスコートやゴルフ場、子供向けの施設などがあり、25分くらいかけて登っていくと養老の滝に着く。紅葉が盛りだったらテクテク歩くのもいいかなと思ったが、まだ今いちだったので、車で上の方の駐車場まで行き、少し歩いて下るコースを選んだ。
日中は暖かだったが、滝の周辺は空気が冷たく、あたり一面森のいい匂いがしていた。もう少しして周囲がきれいに紅葉した頃に、今度は滝を見上げながら下の道から登ってきてもいいなぁと思った。


しばらくぶらぶらし、坂と階段を登って駐車場に戻った。お茶を飲みながら岐阜県のこういう売店では必ず売っている飛騨牛コロッケをパクついていると、階段を登ってきたカップルが隣のベンチに腰を降ろした。20代後半くらいだろうか。二人ともおしゃれな感じだ。
なんとなく会話が耳に入ってきた。
男「ああー疲れた。こういうとこは一生に一回でいいな。何回も来るとこじゃないな」
女「地元だけど初めて来た」
男「なんにもねーじゃん。滝だけじゃん。疲れたし」
女「‥‥‥‥‥」
男「こんなんじゃ客あんまり呼べなくて当然だな」
男はしばらくブツブツ不平を言っていた。女の方は黙りがちだった。彼らの間には、滝の周辺の爽やかな涼しさとは別種の、ひんやりした空気が漂っていた。やがて二人は立ち上がり車の方に歩いて行った。


確かに観光地としては地味だし若者受けするところでもないが、せっかく一緒に彼女の地元の名所に来たのである。デートで初めての場所に来て「これは外したかな」と思っても、何かしら面白いことを見つけ出したり、逆にそのつまらなさを二人で笑いあったりして、それなりに和やかな空気を作ろうとするものだよ普通は。相手があんなふうでは、よほどコミュ力と忍耐力がなければ、口をききたくなくなって当然だろう。片道5、6分のゆるい坂と階段で「疲れた」を連発し、秋の山の風情など移りゆく自然を味わう余裕もなく、彼女に「飲み物とかいい?」と訊いてやる気遣いもなく、エラそうに文句ばっかり垂れてるテーマパーク脳の男となんか、さっさと別れちゃいなさい!


などと心の中で他人に悪態つきながらふと気づくと、一緒に来た夫の姿が見当たらない。探したら、階段を少し下った眺めのいいところに腰を降ろして、ビールを飲んでいるではないか。私を見るとニヤッとして「帰りも運転よろしく」と言った。先手打たれた。一人で勝手に楽しむ男も時々困る。

*1:十数年前、真夏に二日酔い気味で行って炎天下を歩き回り気分が悪くなった。体調整えて行くべきところ。