「愛知ビエンナーレ」なんてありません

新著を読んでくれた知人から、メールで間違いを指摘された。「はじめに」の最初の方。
「P7、愛知も、ビエンナーレではなくトリエンナーレですよ(笑)。」
ぎゃーっ!! なんてこった!!!!
あまりに堂々としたミスに3センチくらい飛び上がってしまった。
地元なのになんでこういう書き間違いを? 恥ずかしいです。
何度も何人かで校正しといてなんで見落とすか? 不思議です。


‥‥‥なぜこんなことが起こったのか、(これ以外の)原因をいろいろ考えて、三つ思いついた。


一つ目。
「あいちトリエンナーレ」が開催されることになった時、いろんなメディアが取り上げたし、2010年の第一回目が近づくとあちこちにポスターも貼られ、話題に上る頻度も高くなった。なのに、私は最初になぜか「愛知ビエンナーレ」と覚えてしまっていた(ビエンナーレは2年の一回のイベントを指す)。しかも「あいち」を「愛知」で。
「愛知ビ‥‥」と言いかけて「‥‥トリエンナーレ」と言い直したことがあるし、人に訂正されたこともある。発音的にも、愛知の知の i音とビエンナーレのビの i音が繋がり易い。そういうことが数回あって、自分の中で「これは間違えちゃいけない」という思いが強くなった。もう間違えたくない。地元なんだから間違えて言ったらいけない。そう思えば思うほど、うっかり間違えそうになって緊張する。
他人と喋っている時は「間違えないように!」と気をつけているが、一人で原稿を書いている時は書きたい内容先行でどんどん進むので、その手の緊張は緩む。それで間違えて書いた。何度も読み直したのに、最初に覚えた「愛知ビエンナーレ」が頭の中に定着してしまい、気付かなかった(その辺が杜撰になるのはたぶん歳のせいもある)。


二つ目
この文章は「ヨコハマトリエンナーレやあいちトリエンナーレといった街を挙げての国際的な現代アートの祭典が多くの人を動員している」という箇所である(「ヨコハマ」も正式に書くなら「横浜」もしくは「よこはま」とすべきところである)。
「○○や××が‥‥」というフレーズは、ある一つの項目の中にバラエティがあることを示すフレーズだ。たとえば「メニューには天丼やカツ丼が並んでいた」と書くところを「メニューには天丼やカツカレーが並んでいた」と書いてしまったら、その人はカツ丼ではなくカツカレーが食べたかったから間違えたのだと推察されるだろうが、それ以外にバラエティを示したいという潜在的な気持ちが、「天丼」「カツ丼」と丼系が並ぶより、「天丼」「カツカレー」と異種の食べ物が並ぶ字面を選んだということもあるのではないか。
自分があの文章を書いていた時、おそらく無意識の中で「トリエンナーレ」が二回続くのはバラエティを示すフレーズ的にあまり美しくないと思っており、「トリエンナーレもあればビエンナーレも‥‥」という幅を出したくて、そう書いてしまったような気がする。


三つ目
私は愛知県人なのに愛知○○、名古屋○○と名のつくものにことごとく懐疑的という厭な性向がある。その筆頭が愛知万博だった。石井竜也藤井フミヤがなぜか重要なポジションで参加したあの愛知万博。ヤンキーの多い名古屋に相応しい人選だったのだろうが、もう愛知県てロクなことしないんだから‥‥という思いを強くもっていたところに、あいちトリエンナーレ。最初の印象が「大丈夫かなぁ」だったのだ。
あいちトリエンナーレは盛況で、私も会期の終わりの方で展示のいくつかを見た。「終わりの方」でわかるように、個人的な盛り上がり度はどちらかと言うと低かった。つまり私個人の関心領域においては、その時のあいちトリエンナーレは「これはどうしても早く見ておかねば‥‥」と強く思えるほど重要なものにはならなかったということだ。もしそこまで重要なものだったら、一度書き間違えても必ず後で気づいただろう。


以上が、私の方の理由である。
では編集者と校正者の人が間違いに気付かなかった理由は? 東京在住だからである。東京方面では横浜トリエンナーレは有名でもあいちトリエンナーレはかなりアートに関心のある人でないと知らないだろう(追記:2019年のあいちトリエンナーレの「表現の不自由」展をめぐるゴタゴタで知らない人はいなくなったが)。
他の章の中で私が雑に『岸田劉生展』と書いたところを、校正の人はちゃんと調べて『生誕120周年記念 岸田劉生展』と正式名称に直した。なのに「愛知ビエンナーレ」は放置だったのは、「はじめに」で名称を出しただけでそれについて述べた箇所ではないという重要度の低さゆえに、いちいち調べなかったのだろう。


しかし読み始めて2ページ目でこういう決定的な間違いがあると、その後の記述の信憑性が疑われかねない。アートについて書いているのに、アート関係の固有名で間違えているのはイタいです。しかも地元民。あいちトリエンナーレ関係の人、ごめんなさい。もし二刷りがありました折には、ちゃんと直します。


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新刊のお知らせ - 『アート・ヒステリー なんでもかんでもアートな国・ニッポン』


●追記
この数日、「アート・芸術」部門と「社会心理学」部門の中で20位から2位の間を激しく上下している(皆さま、ありがとうございます!)が、全体のランキングは私の見た限り最高で2000位台だった。「3ケタになったら自慢してもいい」と処女作を書いた時の編集者に言われたが、これまで一度もない。一回でいいのでなってみたい。
でも新刊のお陰で前著の『アーティスト症候群-アートと職人、クリエイターと芸能人』(河出文庫)がまた少し売れ出したようで嬉しいです。


●これまで紹介して下さったところ
ウラゲツ☆ブログ http://urag.exblog.jp/16479544/
CINRA.NET http://www.cinra.net/news/2012/09/28/122016.php