WEB連載、更新されました。テーマは「優しい女」。

WEBスナイパー(18禁サイト)に連載中の映画エッセイ「あなたたちはあちら、わたしはこちら」第六回がアップされています。今回は邦画です。


前半で取り上げたのは、『流れる』(成瀬巳喜男監督、1956)。芸者置屋の女たちの表と裏を描いた文句なしの傑作。当ブログで以前に書いたレビューの圧縮版になっています。

流れる [DVD]

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幸田文の原作は「女中の梨花(作者)の眼から見た置屋の女たち」で、梨花はあくまで観察者の位置にあって観察の対象にはなっていませんが、映画のほうでは、梨花という女性の地味ながら身についた優しさが、原作よりもずっと印象的かつ繊細に描かれています。
それは、梨花を演じたのが田中絹代(1909〜1977)であることとも関係しているでしょう。「はい、おソースでございますか」と「山中梨花と申します。45歳でございます」のところで私はいつもちょっと笑ってしまいますが、こういうのも、田中絹代ならではという感じ。言葉遣いから立ち振る舞いまで、現代ではあまり見ることがなくなった種類の女性かもしれません。


後半で取り上げた映画は、『長屋紳士録』(小津安二郎、1947)。こちらに重心を置いて書いています。

長屋紳士録 [DVD] COS-019

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おたねを演じた飯田蝶子は、戦前からの小津映画の常連女優。最高の演技です。そもそも、若くも美人でもない老け役専門女優をヒロイン、それも長屋の金物屋のちょっと怒りっぽいおばさんで登場させるところが素晴らしい。
コメディだけに会話が面白いのですが、特に、幼なじみとして登場する吉川満子が、終始冷静に突っ込みを入れるその台詞が傑作です。人の良過ぎる笠智衆(イケメンで歌が上手い!)もいいし、ちょっと小狡いところのある河村惣吉(下町言葉の台詞回し!)もいいし、ほとんど台詞のない子役の青木放屁(なんという芸名!)もいい。
YOUTUBEで全編見られます。


二つの作品に共通するのは、「滅び」について描かれているという点です。『流れる』ではそれは花柳界ですが、その世界を垣間みた一般人である梨花のような女も、今では既にいないのです。
一方、『長屋紳士録』のおたねは、何が「滅び」に瀕していたか、最後に気づく女です。彼女の思いがけない台詞に笠智衆らも二の句が告げず、サッと空気が引き締まる。あの場面のためにそれまでの積み重ねがあったのだ、小津安二郎、上手いなあと改めて思いました。
そういうわけでイラストはおたね=飯田蝶子です。意地悪いような困ったような、ふてぶてしいような情け深いような、微妙な表情を描いてみました。よろしくお願いします。


「あなたたちはあちら、わたしはこちら」第六回 優しい女