スーパーで買い物するおじさん

一昔前、平日昼間のスーパーの買い物客と言えば、主婦だけだった。伊丹十三の映画『スーパーの女』(1996)に登場する客も、ほとんどそういうおばさんたち。新聞のチラシを見て、午前中に買い物に行く専業主婦だ。
今では、スーパーの買い物客は多種多様。私の住む地方都市のスーパーでは、平日の昼間、定年退職したと思しき中高年男性が一人で買い物している姿をよく見かける。たまに、奥さんのお使いで来たのかメモを見つつキョロキョロしながら買っている人もいるが、大抵は「いつも買い物している人だな」とわかる慣れた風だ。
カートを押してサッサと目当ての売り場から売り場へと移動し、真剣な眼差しで食材を吟味し、日付を確かめてカゴに入れ、レジでは釣り銭が少なくて済むよう小銭を細かく出し、ポイントカードも出し、大きなエコバッグに手際良く品物を詰め、カートを所定の場所に戻してからスタスタと駐車場に向かう白髪のおじさん。本日のミッション滞りなく遂行‥‥という感じ。こういう人は、買ったものの管理や調理も自分でしていそうに思える。


休日になるとスーパーの様子は一変、家族連れが多くなる。イオンなど大型ショッピングモール内にあるスーパーはもちろん、単独の店舗でも家族連れが目立つ。夕食のメニューを皆であれこれ相談しながら買っている家族もいるが、なぜついて来ているのかわからないような人が時々いる。特に男性。
一人遅れてノロノロ歩きながら、スマホを見ているお父さん。時々急に立ち止まる。かと思えば、他の人のカートにぶつかったり。実に迷惑。家族と離れて、惣菜売り場の前で腕組みして立っている中高年男性。今夜のおかずを見繕っているわけでもなさそう。ドンと陣取っているので邪魔でしょうがない。ブラブラとあちこちの棚を眺めながら、暇つぶしをしているようなおじさんもいる。ただでさえ混んでいる休日だと、こういう人もかなり邪魔くさい。
奥さんと一緒に買い物するわけでもなく、外で待っているわけでもなく、無為にスーパーの店内にいる男性。普段スーパーに行かないから、スーパー内での振る舞い方を知らない。買い物に興味がないということは、たぶん調理もすべて奥さん任せなのではなかろうか。休日くらい妻に替わって、来るべきミッションに慣れておけばいいのに。


夫もどちらかというと、休日は一緒にスーパーに行くタイプだ。というか、彼はわりとスーパーが好きだ。
ただし、私が毎日食べる野菜や乳製品を買っている間に、姿が見えなくなる。大抵、鮮魚売り場で主婦に混じって魚の品定めをしている(専門が魚類)。「いいマグロがあった」とパックを持って来てカートに入れる。しばらくすると、「こっちのほうが安かった」と別のパックを持ってきて前のを戻しに行く。一緒に見て回ればいいのに、チョロチョロ行ったり来たりして慌ただしい。
また姿が見えないなと思っていると、精肉売り場で松坂牛サーロインステーキ2980円をガン見している。「たまには高い肉、食ったろか」「マグロは?」「今日、マグロをヅケにして食って、明日肉を食う」。明日は豚シャブにしようと思ってたんだけど‥‥。スーパーでの買い物が好きなのはいいが、冷蔵庫の中身と相談して決める献立計画を無視して、その時自分が食べたいものを買いたがるのはちと困る。
(ちなみに彼は昨年から新潟に単身赴任となり、仕事帰りにスーパーに寄って自炊している。魚が安いと喜んでいる)


献立計画を立てながら、近所のスーパーで旬の食材を安く買っておかずを二、三品作り、余りもうまく使い回していく‥‥という当たり前だが大切な仕事。
日々の食事の維持管理は、親元を離れた独身時代に体験する人が多いと思うが、そういう機会がないまま歳を取るケースもあるだろう。あまり歳をとってからやろうと思っても難しいので、できれば若いうちから慣れておいたほうがいいことの一つだと思う。