永遠のうさこちゃん

ディック・ブルーナさん死去 89歳「ミッフィー」作家


1959年生まれの私は「うさこちゃん」世代です。シリーズで初めて読んだ絵本は「うさこちゃんとうみ」。今は「ミッフィー」世代の姪のところにあります。



タオルケースはいつも講義の時、手を拭くハンドタオルを入れて持っていく。「うさこちゃん びじゅつかんへいく」は、美術教育関連の授業で使っている。ハンカチとチケット挟みは、去年展覧会で買った。


追悼に代えて、去年の3月に名古屋の松坂屋美術館で見た展覧会のコラムを貼っておきます。

 東日本大震災の折り、「被災した日本の子どもたちにメッセージを」との要請で描かれたディック・ブルーナの絵をよく覚えている。「my best wishes to Japan」と書かれた上に、両目から大粒の涙を流すミッフィー。色はない。日常を根こそぎ奪われた子どもたちを励ますのではなく、その悲しみに寄り添おうとする画家の優しさが伝わってきた。
 1950〜60年代生まれの人なら「うさこちゃん」という名で記憶している、世界一有名な兎の女の子ミッフィー(オランダ名はナインチェ)。開催中の「誕生60周年記念 ミッフィー展」には、55年に初めて出版された『ちいさなうさこちゃん』の原画を始め、ミッフィー以前の初期絵本、油彩画やスケッチなど約300点が展示されている。
 一点一点から感じられるのは、キャラクターのかわいらしさはもちろん、ぎりぎりまで要素が削ぎ落とされたデザインワークのシンプルな力強さだ。確信をもって引かれた線、選び抜かれた色彩、構図。制作風景の映像からは、60年の間人々を魅了してきた絵が、どれだけ繊細に注意深く作られているかが見てとれる。
 絵本の中で特別な事件は起こらない。なくしたぬいぐるみを探したり、夢の中で雲に乗ったり、生まれてくる赤ちゃんのために絵を描いたり。そこにあるのは小さな女の子の日常そのものだ。第2次世界大戦時、ドイツに占領されたオランダで、思春期のブルーナは「平凡な日常生活こそが大切」と胸に刻んだのかもしれない。
 日常が災害によっていとも容易く失われることを学んだ私たちに、揺るぎない明快さでブルーナが描く何でもない生活のささやかなひとこまは、この上なくかけがえのないものに映る。ミッフィーは子ども時代の思い出を超えて生き続けている。

朝日新聞東海版+C「百聞より一見」2016年3月27日掲載)