「貢献」したい女心

問題の人物像

1. 36才から45才の女性
2. 積極的な性格
3. 物事に冷静に対処できる
4. かなり知的レベルが高い
5. 心の中に深い悩みを抱えている


これは、誰の条件を並べたものか。誰も誤解しないとは思うが、私のことではない。福井に二億円の宝くじを送って世間を驚かせたあの匿名の人を、その手紙の文面から専門家が分析した結果、導き出された人物像であるという。
例によって女性セブン(か女性自身が忘れたがセブンで通す)の記事なので、その専門家の分析自体どこまで信用できるのかわからないが、これが女性週刊誌に掲載された記事だというところが注目すべき点である。


宝くじの送り主の行為は、様々なメディアで賞賛された。私も素直に賞賛した。普通の人にはなかなかできない善行を、さらりとやれる人は尊敬に値する。名を明かさないというところも、奥ゆかしい。
宝くじで当ったとは言え、2億もの大金である。小金持ちの隠居老人ではないかとか、いろいろな憶測が飛んだ。しかし文面から専門家が推察するに、送り主は中年の女性である。
そして、この匿名の人の無私の行為に最も強く反応したのも、中年の(特に専業の)女性ではないかと思われる。


中年専業主婦が社会に直接貢献できる機会は少ないが、「何か役に立ちたい私」を実感したいと思っているおばさんは多い。市民運動とかボランティアに参加しているおばさん達は、ものすごく生き生きしている。やっていることが実際に実を結んでいるかどうかは別として、「役に立っている私」を目一杯感じているみたいだ。
「それって実は結構、自己満足もあるんじゃないすか?」などと言おうものなら、その場から生きては帰れない。
それに彼女達からそういうものを取り上げてしまったら、どこで暴発するかわからない。だからそっとしておくのがよいのだ。


しかし、社会の役に立つようなことをしたいと思っても、家庭の事情が許さず悶々としている女性はたくさんいるだろう。もし宝くじが当ってもどこかに寄付するどころではなく、ローンの返済などに消えていくのが定め。でなければ老後のための貯蓄。いつ旦那がリストラされるとも限らないし。
私ならまず一億くらいを回りの人間に大盤振る舞いして足下にひれ伏させ、あとの一億をちびちびと自分のために使う。あ、一千万くらいはどこかの福祉施設に寄付するかもしれん。
二億あっさりとどこかに寄付する人が身近にいたら、私はその人の足下にひれ伏す。どんな嫌いな奴でも。

私もヒロイン

だから、この二億円寄付の中年女性(推測)は、思いきった善行をできる機会に恵まれない、恵まれたとしても実行できるかどうか自信のない女性達のヒロインである。
ヒロインかヒーローかわからない時点で、この人を賞賛する女性の投稿記事を新聞で読んだ。しかしそれが女性である可能性が強いとなると、増々関心は高まるだろう。
そして極め付けが、冒頭に書いたその人物像の五つの条件。なんというか、中年女性の心を鷲掴みにするような条件である。


これを見た36才から45才の女性の半分以上は、「これってなんか私のことみたい」と思うのではないか。やや水増し気味に。
世の中の人々が働いている朝っぱらから、喫茶店で女性セブンを読んでいるからと言って、「消極的な性格で、物事にすぐ熱くなり、知的レベルは低く、何の悩みもない」とは限らないのである。それは偏見というものだ。と女性セブンの読者は思う。
特に5の「心の中に深い悩みを抱えている」というところが、キモである。そう!きっとそうなのよと女性セブンの読者は膝を打つ。この人は私なのだと。
私も2億当ててたら、この人と同じ行動をとるかも。だってこの条件、私にぴったりだもの。私だって、いざとなればそのくらいのことは。


手紙分析家は、女性セブン読者のウケを狙ってこういう分析結果を出したわけでもなかろうが、あまりにもツボにハマっている。
しかし更に推理を進めて、「おそらく社会的に地位の高い職業、医者とか弁護士とか大学教授などである可能性が高い」などと書かなくて正解だった。そしたら逆に反発喰うのは必至である。いいところで寸止めしている。


ちなみに第6の条件として、「広島近辺在住」というのがあるのだが、これは宝くじの番号方面からの推測らしい。セブン編集部は御丁寧にも、広島のよく当選くじが出る宝くじ売り場まで追跡していき、売り場の女性やガードマンに聴き取りを行っている(わかるわけがない)。
万一そこで「そう言えば、身なりのいいすごくきれいな女性がよく買いに来てたけど、もしやあの人では?」などと売り場のおばちゃんが漏らそうものなら、「美人」という項目が加わったはずである。そこまでいかなくてよかった。
「美人医師」「美人弁護士」「美人大学教授」なんて‥‥女性セブン読者の更なる反発を喰らうのは必至であろう。