男の嫉妬

先週のブログを読んだ夫が、「独居老人で電飾をつけるのは、お婆さんであってお爺さんではない」と言った。
「ポックリ死んだお爺さんを電飾がチカチカ照らしているって、泣けない?」
「泣けるけど、それは小説の世界。そういうことやるのはお婆さんの方」
そんなものかな。
「家を飾りたいとか、孫を呼んでそれ見せて「きれいだねえ」って喜ばせたいとかいうのは、お婆さんなの。決まっとる」
「それってジェンダー?」
「そう」
ふうん。私が珍しく反論しないので、夫は調子にのって喋りまくった。
ジェンダー入門・男部門の俺の意見ではだなあ、お爺さんてのは、そもそもそんなことやる気もおこらんの。お婆さんに手伝ってくれと言われて、渋々やるだけ。一人暮らしならやらん。喜んでやるのは、子供や孫と一緒に住んでる余裕のあるお爺さん。それの代表が柳生博。信州の山奥に別荘作って、息子や孫と暮らして、自然は素晴らしいとか言っちゃって、そんでクリスマスはどっかからでっかいモミの木持ってきて、家の前に植えちゃってよ。そんで孫と一緒に電飾つけて、暖炉のあるリビングで七面鳥の丸焼き食いながら「ほーら、きれいだねえ」とか言ってよー。そういう金も暇もあるジジイが、余裕かましてそういうことやるのよ。一人暮らしのお爺さんがひとりぼっちでやるか、そんなトロくさいこと」
‥‥何か怒ってるの?(というか「ジェンダー入門・男部門」っていつからそんな)


確かに子供もいないしお金もないので、柳生博のような老後は彼にはない。ひょっとすると嫉妬しているのかもしれない。
「ああいうのがうらやましいの?」
「うらやましいもんか」
やっぱりうらやましいんだ。
何もかも手に入れて余裕しゃくしゃくの人を見ると、「チクショウ‥‥」という気になるものだが、そういう自分を認めたくないのも人情である。気持ちはわかる。


今朝、喫茶店でクロワッサンを見た。男について考えるという特集で、なぜ日本の男は幼稚なのかとか、男はセックスしてくれる母親を求めているとか、男に過剰な要求をしてはいけないとか、男だけでなく女も幼稚になっているとか、男はどうしても女に勝ちたいとか、いや叱られたいとか、いろんな男女がいろんなことを書いていた。
そこに素敵な中年男の代表として、ヤクルトの古田敦也政治学者の姜 尚中(カン・サンジュン)が登場していた。
古田選手はともかく、姜 尚中は中年女性にえらく人気らしい。顔と声と喋り方のステキな、とっくりセーターの似合うインテリ中年(しかも年齢より若く見えて東大教授)ということで、「朝ナマ」のレギュラー出演者の中でも注目の的(女性から)。ファンクラブはないが、出版元への問い合わせは多いという。


「とっくりセーターの似合うインテリ中年」と言えば、一昔前は中沢新一ということになっていたような気がするが、姜 尚中の喋りにはかなわない。
あのソフトなバリトンで懇々と諭すような喋り方には、確かにある種の「魔力」がある。
あの声でクドかれてみたいと思っているプチインテリ女は、潜在的に多いと見られる。
ヨン様よりカン様。
クロワッサンの写真も横顔のアップと全身(もちろんとっくりセーター)で、いかにもな感じである。


夫は「朝ナマ」が好きで昔からほぼ欠かさず見ているようだが、姜 尚中が出てくるたびに、
「カン、カッコつけ過ぎだ!顔もよくて声もよくて知らんうちに東大教授にまでなっちまいやがって、何もかも揃い過ぎ!東大でも女子学生に囲まれてんだろうなあ、モテるんだろうなあ、くそう、なんか欠点はないのか」
と毒づいている。
自分と比べて嫉妬するのは幾ら何でもと思うが、かけ離れていればいるほどその乖離に比較せざるをえなくなるのかもしれない。


「カンさん出てるよ、ほら」
とクロワッサンを彼の目の前に持っていくと、
「それもう見た。ケッ、カッコつけやがって」
「うらやましいんでしょう」
「いいや、ぜんぜん。俺、きらいだもん東大教授なんか」
でもいち早くチェックしてるってことは? やっぱりうらやましいんだ。


ちなみに彼が「朝ナマ」で「たまに意外といいこと言う」と評価しているのは、宮崎哲弥小林よしのりである。姜 尚中はいくらいいこと言ってても「カッコつけ過ぎだ!」で切って捨てられている。男の嫉妬は恐ろしい。