減らないワイン

よしもとばななさんの「ある居酒屋での不快なできごと」- 活字中毒R。


はてなブックマークの数が今日21時40分の時点で800を超えている上に、ほぼ全員がコメントしている。言及記事も30件以上。誰でも何か一言言いたくなるエピソードなんだろうなぁと思った。
言えそうなことは大体言われてしまっているので、この記事でふと思い出した、あまり思い出したくない昔の出来事を書いてみます。


友人知人六人くらいで、焼き肉屋に行った時のこと。
地元ではわりと有名な店で、広い店内は大勢の家族連れやグループで賑わっていました。焼き肉と言ったらまずは生ビール!ですが、ビールの後はワインにしようということで、赤を一本頼みました。ビールばかりだとすぐお腹が膨れてしまうので。
お酒の飲めない人(運転手)一人を除いて、後は全員かなりの呑んべえ。ワインの1本や2本くらいあっという間だわな‥‥と思いつつも、私は肉を焼くのとおしゃべりに夢中で、しばらくワインのことは忘れていた。


そのうち、おかしなことに気づきました。壜のワインがちっとも空にならないのです。むしろ増えている。さっき、もうあと一杯くらいしかなかったはずなのに。いつのまにかもう一本頼んでいたのかな?
注がれたワインを飲んでみて、また気づきました。味が最初のと違う‥‥。でもボトルは同じ‥‥。一緒に行った夫ともう一人の友人も気づいたのか、「あれ?」という顔でワインボトルを見ている。
「ねえ、このワインさー」と私が言いかけると、六人のうちの三人が一斉に口に指を当てて「シーッ」と言いました。「あのね、これは魔法のワインだから」「一本で二本分楽しめるワインだから」「どういうこと?」「まあまあ。それは後で」。
きな臭い。かなりきな臭い。
私達が「なんなの」「教えなさい」と食い下がったので、とうとう一人があたりを憚りながら声を潜めて事情をバラしました。
びっくり仰天、ワインを噴きそうになった。


車の中に新しいワインのボトルが一本あったのです。お店で注文したワインを飲み終わったところで、一人がその空き瓶をバッグに隠し、車に忘れ物を取りにいくような振りをして出る。車内で空き瓶に新しいワインを移し替え、バッグに隠して戻る。素知らぬ顔で、最初に注文したワインボトルで持ち込みワインを飲む。*1
なんという悪知恵、というかセコい知恵!(よいこの皆さんは真似しないように) 同じテーブルにいて、そんな怪しい振る舞いをしている人がいたのに全然気づかなかったのも相当間抜けだが。
もちろん店の中で「ええー、このワイン、車から持ってきたのー?」と言うこともできません。呆れ果てた私達はワルモノ達を思い切り睨みつけながら、音声最小ボリュームで「何やってんですか!」「信じられない」と言いつつ、急いで残りのワインを飲み干しました。美味しいワインが急に貧乏臭い味になったような気がしました。


店を出た後、三人が小一時間責められたのは言うまでもありません。車のトランクにはワインクーラー、コルク用栓抜き、漏斗と道具一式が揃っていました。計画的な犯行です。しかも無実の者を巻き込んで、チクろうにもチクれない状況を作り出すという。
彼らの言い分はこうだった。「だってあそこのワイン、あんまり美味しくないんだもん。酒持ち込みも不可だし」「美味しいお肉には美味しいワイン飲みたいじゃないですか」。
でもそこは焼き肉屋なのです。*2 もっと美味しいワインを飲みたければ、それなりの店に行けばいいのであって、こんなえげつないことしてまで飲みたいとは思わないなぁ。バレなきゃいいという考えも嫌だ。お店の人を騙してお酒飲んでも美味しくないよ。中高生が親の目を盗んで飲むのと違うんだから。


口々に「こういうことは二度としないでほしい」と言われて、やっと彼らも「ちょっと悪戯が過ぎた。反省」ということでその場は収まりました。ワインの値段は、それ一本で店のが軽く2本飲めるくらいの額。「勝手にしたことなのでいい」と言われたけども、飲んだからには一応割り勘で払い、微妙な共犯気分を味わいました。
確かになかなかうまいワインではあった。帰りにチーズでも買って、うちでみんなで飲んだらもっと美味しかったのにね。

*1:壜やグラスがそのままだったら味と香りが混ざるのでは‥‥ということは、とりあえず気にしないわけです。

*2:追記:焼き肉屋としてはいい店でした。ワインも正しく保管してあるし。