思い出

『全共闘以後』の余白に小さい字で書き込む、私の「活動」

1.『改訂版 全共闘以後』(外山恒一、イースト・プレス、2018) 1950年代から60年代末にかけて盛り上がった学生運動は、72年のあさま山荘事件以降衰退し、若者は政治への関心を失った‥‥というこれまでの見方を否定し、主に80年代以降のメインストリームでは…

下駄の季節

昭和30年代後半から40年代が私の子ども時代で、当時、普段履きに下駄を履いている人がまだ普通にいた。きものや浴衣だけでなく、洋服の普段着に下駄を履く。 家の玄関の上り框にはいつも、父の大きくて四角い朴歯の下駄があった。子どもの頃から下駄を履き慣…

眠りにつく前に

幼いお子さんについて時々呟かれているid:white_cakeさんのtweet。むすめ、寝かしつけ中すぐに「あついい」と半べそになるくせに、「暑いなら掛けなくていいよ」とい言っても毎回布団を自分で引っ張り上げて掛け直し「あったかーい」と言う。冬の間布団を掛…

1949年のビフォーアフター、リンゴ箱の記憶

東京新聞:「ビフォーアフター」工事代払って 建設会社がTV局提訴へ:社会(TOKYO Web) 以前、建築士の知人から、たまにトラブルがあるらしいという話を聞いたことはあった。今回は建設会社が「被害」に遭っているようだが、後で施工主の方から不満が出て、元…

花と蛇

庭のハクモクレンが何年ぶりかにちぎったティッシュみたいな花をつけ、それが散ったらずっと前に植えてだんだん増えてきたスミレ群が咲き、次はシランの赤紫の花が一斉に開き、ドウダンツツジもスズランに似た小さい白い花をつけ始めて、あまり熱心に手入れ…

「わくわくが止まらない」が止まらない

時期外れの話題だが、大学の学期末レポートを読んで気になったこと。 地方の芸術系大学の1年生中心の一般教養のレポート。最近目につき出したのは、以下のようなフレーズ(今期の例)。 ・わくわくが止まらない。 ・精一杯の私で応える。 ・好きを追求して…

父の呪い、母の背中

これまでの著作も読んでいて、今回の本を読んだ友人に言われたこと。「お父さんの話はよく出てくるけど、お母さんの話はないね。ちょっと不自然なくらいない。何故?」。言われてみるとそうなのだ。私は「父の娘」だから、というだけなのか。これもちょっと…

田んぼに落ちた青い靴

はてなブックマーク-「酒を飲み過ぎて記憶がない」という人間を信用できない - 今日はヒトデ祭りだぞ! エントリーページのいろいろなコメントが面白い。 お酒を飲み始めて数十年、途中からすっかり記憶がなかったのが2回、ところどころ飛んで覚えてないと…

「福山ショック」から思い出した「泥足にがえもん」への恋

「福山雅治が結婚したので、帰ります」 女性たちの福山ショック【20選】 人気の凄まじさを再認識しつつ、16、7年前、仕事先の大学の男子学生と話していて「ところで福山雅治ってそんなに人気あるの?」(←世間知らず)と言ったら即座に、「何言ってんですか…

「盗作さん」と言われた話

(※この記事は五輪エンブレム問題における佐野氏の責任に言及するものではありません) ohnosakiko デザイン, 社会 佐野氏の人柄とかこれまでの仕事などにあまり関心はないが、今回この件で「クリエイト」ということにたくさんの人が強い期待を抱いていてオ…

再掲『海とマリ ― 少女の思い出』(二十歳の時に戦争を体験した父の書いた話)

愛知県立旭丘高校の教員で童話部の顧問をしていた父が、1967年頃に生徒の求めに応じて部誌に投稿した短編。父はいくつかの少年少女向けの読み物を書いていたが、その中でも父自身の思い出と、幼い頃の私の記憶が重なった作品として、心に残っている。 この小…

『ボルネオ人をしめ殺すオラン・ウータン』の衝撃

「生きものが苦しむところを観察したい」という残虐な欲望が、子どもの頃にあった。と書くと不穏だが、人間や身近な動物は厭で、あまり大きくなくて自分の好きではない生きもの、たとえば虫なら、平気でもがき苦しむところを見ることができた、というわりと…

44年目の『鳥の歌』

クラシック音楽の愛好家だった生前の父は、若い頃にバイオリンを齧っていたが、それより好きな楽器はどうやらチェロであったらしい。女の子が生まれたらピアノ、男の子が生まれたらチェロを習わせたかったと(私が女の子だったのでピアノになった)。 もちろ…

昔、新幹線の中で

ここでした芸大の呼称の話とは関係ないが、出身校というテーマで思い出したこと。 20代の終わり頃だったか、東京から帰る新幹線の中。満席で車両の間にも座れなかった人が結構いる中、私は食堂車に来た。コーヒーでも飲んでしばらく過ごそう。 「ご相席にな…

藤城清治の影絵

この間の日曜日、NHK「日曜美術館」で影絵作家の藤城清治を特集していた。『「光と影の”又三郎”」藤城清治 89歳の挑戦・完結編』(前編の方は見ていない)。 昭和30年代生まれの私にとって、藤城清治の絵は幼少の頃の記憶と強く結び付いている。NHKの「みん…

曲がった釘の思い出

暖かくなったので、放りっぱなしだった庭を片付けることにした。 いつ何を解体したのかも忘れてしまったくらい古い角材が、隅に7、8本積んである。それに付いたままになっているL字金具を取り、釘を引っこ抜いてから、ノコで適当な大きさに切って可燃物の…

無宗教で弔うこと

国や地域や宗教によって、さまざまなかたちを取るお葬式。日本では仏教形式で行われることが多い。これまで私が参列した葬儀は9割方、仏式だった。あとはキリスト教。亡き伯父と伯母がクリスチャンだったからだが、では仏式で弔われた人々は皆仏教徒だった…

路地の奥、記憶の底、そして「青春の残滓」

10代の終わりから20代前半にかけての5年間、東京に住んでいた。5年のうち4年半くらいが池袋。パルコがDCブランド展開で賑い、西武美術館が刺激的な展覧会を連発し、改装前の文芸坐があって、サンシャイン60が出来た頃。その昔、青江三奈の『池袋の夜』で…

祖母と「おりぼん」

実家に行って、古い写真の整理をしていた時の話。 3歳から6歳くらいの頃の私は、大抵頭に大きなリボンをして写っていた。髪を横分けにして三分の一くらいをゴムで括り、幅広のリボンを結ぶ。昭和30年代の小さい女の子の典型的なヘアスタイルだ。リボンのこ…

千歳樓の思い出

少し前にブックマークした、中央線定光寺駅付近の写真。廃墟のたたずまいと周囲の自然の対比に目を引かれる。 【フォト】定光寺駅(駅☓断崖絶壁☓廃墟)-Sakak's Gadget Blog 廃墟は、元は「千歳樓」(「千歳楼」の表記もあり)という昭和3年創業の有名な老…

とてもささやかながら若松監督の思い出を

若松孝二監督が亡くなった。告別式の事務を取り仕切る東京の友人から夫のところに、通夜と葬儀の連絡が届いた。夫は仕事があって行けないので、別の友人と連名で花輪を出すことにした。 夫は映画業界の人間ではないが、若松氏とは二十数年来の知古だった。監…

「私、朝鮮の人になっていたかもしれない」と母は言った

実家に行ったら、母が昔のアルバムを見ていた。なんと、自分の幼少期からの年代ものである。 母は昭和12年(1937)生まれ。最初のページに、一つ上の姉と一緒に写っている2歳半の母の写真があり、その上にずっと後で父が母だけ引き伸ばした写真が貼ってあっ…

1964年の夏、波にさらわれたビーチボールの話

海とマリ ― 少女の思い出 それは、わたしがまだ五つぐらいの女の子だったころのことです。 そのころ、わたしのおとうさんは、とても遠いところにある学校の先生をしていました。その学校は、きれいな海のそばにあるので、ある夏の日に、おとうさんは、わたし…

口腔の欲望

子どもの頃のアルバムの中の一枚。幼稚園に上がる少し前頃の私が、部屋の中で子ども用の揺り椅子に座り、両手に抱えた哺乳瓶に吸い付いている。とっくに乳離れしている年齢である。 母の話によれば、2歳下に妹が生まれ、彼女が哺乳瓶でミルクを飲み始めた時…

「この暑さにやられてる」とロシアの作家は言った・・・ソローキンの思い出

今からもう10年以上前のことなのに、時々昨日のように思い出す。 歳下の友人のN、Sと私、そしてロシア語通訳として同行を頼んだ知人のKは、東京は北区滝野川にある東京外国語大学教職員宿舎を目指して、テクテクと住宅街の中を歩いていた。カンカン照りのう…

『長距離列車の少女』

長い汽車の旅だった。真一のお祖母さんが死んだという電報が来て、真一の父親は九州の熊本にある郷里へ行くことになった。ちょうど夏休みだったので、真一もついて行くことになり、母親とまだ幼い妹を残して、九州への旅に出たのだった。もちろん、真一はそ…

『十五夜お月さん』と『四丁目の犬』

子どもの頃、ソノシート付きの童謡絵本のシリーズが家にあった。61年に始まったNHKの『みんなのうた』は新しい曲が多かったが、その童謡のソノシートは叙情的なマイナーコードのメロディが印象的な大正後期のものがかなり入っていて、私と妹は幼稚園から小学…

天井歩き

小学生の頃、よくした家の中の遊びの一つに、「天井歩き」というのがあった。 直径が30センチくらいの母の大きな手鏡を、顔のすぐ下、胸の少し上のあたりで鏡面を上にして持つ。自分の顔はなるべく映らないようにして、天井を映している鏡の中を見る。すると…

1967年の「みらいへのけんせつ」

放射性物質にさらされた世代 - 続・たそがれ日記 ブックマークコメントで「そう言えば雨に濡れるとハゲると言われた」といったコメントが散見されたが、これ「酸性雨」のつもりで書いている人も混じってないかな?とふと思った。「放射性物質を含有する雨」…

使われる物なのに使えない物

薄くて、ふんわり軽くて、柔らかくて、うっとりするほどきれいで、繊細で、丁寧に扱わないといけなくて、とてもいい匂いのするもの。しかもあっけなく捨てられる運命にあるもの。 バラの花びら以外にそんなものが世の中にあるとは、5歳までは思っていなかっ…