晶文社が文芸編集部門を閉鎖したというニュース

あちこちで話題になっていたのに今頃気づく。↓こちらに関連記事がまとまっている。
晶文社が文芸編集部門を閉鎖 - 【海難記】Wrecked on the Sea


上の記事でもリンクされている8/30付けの朝日新聞記事では、「文芸一般書の新刊については、今までの半分以下の点数にまで減らすことにした」とのことだが、大幅縮小→事実上の閉鎖ということらしい。
エッセイも評論もルポも翻訳ものも出さない晶文社。実用書ばかり出る晶文社。うまくイメージできない。もう別の出版社と言っていいのかもしれない。


2004年の夏、晶文社から前に本を出した知人がベテラン編集者Aさんに会うのに同行したことがあった。その頃私はブログを始めたばかりで、Aさんは面白く読んで下さっていたようだった。
数ヶ月後、改めてAさんにお会いしに上京した。神田川のほとりにある晶文社の社屋は、「え?ここがあの晶文社?」と思うくらいとても小さな古い建物で、ドアを開けて入ったところが背の高い書棚で囲まれた狭い資料室みたいになっていた。
忙しいAさんが奥で打ち合わせをしている間、私は書棚にぎっしり並んだ本を眺めていた。ソンタグの『写真論』がある‥‥‥トリュフォーヒッチコックの『映画術』これは愛読した‥‥‥植草甚一シリーズに山下洋輔‥‥‥ブラッドベリの『タンポポのお酒』‥‥‥懐かしい。学生の頃書店に行って「なんか面白そう」と思うと、よくサイのマークの本だったことを思い出した。装幀も素敵だから、つい手に取ってみたくなる。


2005年の1月から、晶文社ワンダーランドのHP上で月1でのエッセイ連載枠を頂くことになった。嬉しくて毎回気合いを入れて書いた。Aさんから「面白いです」とメールが来れば喜び、「結びがもう一歩」という指摘が来れば頭を捻って書き直した。
その年の9月、Aさんは突然晶文社を辞められて別の出版社に移られたのだが、その時もう既に、以前のような本作りはしにくくなるという予兆があったようだ。だから私の連載も9回で終わりになり、晶文社でAさん企画で本を出すという夢はなくなった。
翌2006年に初めての本を出すことになった夏目書房は、2007年秋に不渡りを出し倒産した。次の企画の相談をしつつあるところだったがそれも叶わなくなり、担当編集者だったYさんは雑誌媒体に去って行かれた。
2008年に二冊目の本を出した明治書院の担当編集者のOさんは、編集部から別の部署に移動になり、その後まもなく退社された。また仕事をご一緒したかったので残念だった。


たまたまかもしれないが、私が知り合った編集者の三人の方々はどなたも、お世話になって一年から二年くらいの間に環境が変わっている。関わった出版社は三つのうち一つが無くなり、一つは大きく変容した。
こういうことはこれからもしばらく続くのだろう。志のある出版社が消えることより、出版社から志が消えてしまう(ように見える)ことの方が、読者としては悲しい。


※因みにAさんの元で書いた連載『男子にはなれない』(今は当ブログで読めます)の「序」は、『「女」が邪魔をする』の「はじめに」のベースに、Yさんと電話で話しながら思いついた「恋愛指南本にツッコミを入れる」のはブログで2、3回書き、やはり『「女」が〜』の中に手を加えて収録している。



●追記
結局、本を作っても売れないから、出版社も経営上、それに見合った対策を立てざるを得なくなる。本当に良い本を作り続ければ‥‥という理想を保持できない現状。
本を買わない、読まないという傾向についてはいろいろ言われているけれども、私自身も一頃に比べたら本を買わなくなった。買うとしても、新刊は滅多に手に取らない。既刊の本、古本で、読んでおかなきゃいけない/読みたいのにまだ読んでない本がある。それも読み切れないくらいだ。
常に情報の更新が要求される分野では別かもしれないが、新しい本って本当にそんなにたくさん必要なんだろうか? これ以上知のアーカイヴを増やして、どれだけの人がそれを実際に使うんだろう? ‥‥という視点も必要かもしれない。