フェティシズム、セクハラ、ロリコン(前記事への反応に応えて)

追記あり


おばさんのフェティシズム - Ohnoblog2
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メタブクマの階数がすごいことになっているが、とりあえず最初のブクマコメントで多く出された「フェティシズムって男のもの?」という疑問や「セクハラだ」という批判について答えてみる。

フェティシズムについて

フェティシズム」とは精神医学用語で、女性の装身具など特定の物に偏愛を示す、男性に見られる性倒錯を指す。以下、手元の資料他から抜粋。

フェティシズムは倒錯のなかで理論的に非常に重要な位置を占めており、性的器官の代理といってよいものに対する多大なリビードの局在化を伴っている(以下で論じる事例研究で見るように)が、このことは少年に比べて少女の場合にはきわめてまれにしか起こらない。
(『ラカン精神分析入門』(ブルース・フィンク/誠信書房)p.385)

確かに、フェティシズムはとりわけ男性のリビドーを特徴づけているということが認められよう。なぜならば、男性は相手の中に、それだけで彼の欲望をかきたててくれる、弁別特徴を、多少とも意識して探し求めることが多いのだから。
(『新版精神分析事典』(R.シェママ、B.ヴァンデルメルシュ編/弘文堂)「フェティシズム」の項 p.419)

日本では、男性のフェティシズムが変態性欲の一つとみなされることが多い一方、女性のフェティシズムはさほど論じられていない。そのことを男性のフェティシズムは市民権を得ているが、女性のそれは認知されていないことの証左であると指摘する意見もある。精神医学的な立場から言えばフェティシズム傾向が認められる患者は圧倒的に男性が多いとされている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/フェティシズム

その他、精神医学や精神分析関係で、フェティシズムは"男性だけに"見られるとしている場合もある。


前記事の終わりの方の「フェティシズムは基本的に男性のものである」はこうした一般的事実を踏まえたものなので、フェチが男のもんとか初耳というブコメにはちょっと驚いた。「男のもの」とは「男の特権」ということではない。「特に男によく見られる現象」という程度の意味に過ぎない。また女性にフェティシズムがないとも言っていない。


”「フェチシズムは男のもの」なんて世間で言われてる所為で、フェティッシュな欲望を持つ少女が混乱し「自分は女じゃない」と肉体の性を拒否するようになる”(追記:ブコメを消されたのでリンクを外した)という意見もよくわからない。たとえば、「ナルシシズムは基本的に女のものである」*1と言われて、ナルシーな男が混乱して「自分は男じゃない」と肉体の性を拒否するようになるのだろうか? 確かに女に多い傾向だが中には男もいるよね‥‥と捉えるのが普通ではないだろうか。
フェティシズムは基本的に男性のもの」=「フェティシズムは一般的には男性に見られる傾向」と、性倒錯における男女の非対称性を言っている言葉を、フェティッシュな欲望をもつ女性への抑圧や否定と受け取ること自体が、私には理解できない。


フェティシズム」は最近、カジュアルに「○○フェチ」(鎖骨フェチ、巨乳フェチ、眼鏡フェチなど)という、人間の特定の身体パーツへの性的嗜好を示す言葉としても流通している。*2
精神医学では対象は基本的に身体(生体)ではなく死んだ「物」なのに対し、人口に膾炙する俗流フェティシズムでは身体にまで範囲が拡張され、女性→男性、同性→同性のものも含んでいる。ここには、特定の対象がなければ性生活自体が成り立たない「性倒錯としてのフェティシズム」と同じほど強く切実な欲望から、単に好みのレベルまで幅がありそうだ。
前記事に書いた幼い男の子(の首筋)に対する私の欲望はこちらになる(他にもいろいろ混じってはいるだろうけど)。そしてフェティシズムは性欲の現れの一つだから、私の中にあったのもまあ性欲になるのだろうなと思う。
ともかく「性欲だから悪い」とも「女にフェティシズムはない」とも「フェティシズムは男だけのもの」とも書いていないので、そういうツッコミが来るのが不思議だ。


虚構に対して普通「フェティシズム」という言葉は使わない。「物」としての身体パーツについての「○○フェチ」ですら語の本来の意味からずれてきているのに、更に虚構全般にまで対象の範囲を拡大したら、まったく言葉の意味が空洞化してしまう。
従って、たとえばBLの登場人物の少年や青年の顔や身体などへの読者の趣味嗜好や偏愛を指して、「フェティシズム」とは言うのはおかしいのではないだろうか(「○○萌え」ならともかく)。二次元上の虚構やイメージや記号と、フェティッシュ(呪物)とは位相が異なる。


BLには男の身体へのフェティッシュな視線がある、それは現実の男性の身体パーツに対する女性の○○フェチな欲望が、物語の男同士の恋愛描写に反映された結果だ、という話なら理解できる。
女性が若い男性や若い女性へのフェティッシュな嗜好、視線について楽しそうに語る場面には何度か遭遇している。女の「女の子萌え」については前記事のコメント欄でも出たが、私にもそういう傾向はある。
ただ、本来の「フェティシズム」は言うまでもなく、俗流フェティシズムにおいても、未だ男性の方が欲望の根深さ、対象の量、バラエティともに女性を凌いでいるように見える。
フィギュアを愛でるのは女性より男性の方がずっと多いだろうし、巷にあるヌード写真や性的商品の類いもやはり圧倒的に男→女だ。精神分析フェティシズムの原因を去勢の否認から説明しているが、ジェンダーも関わっているだろう。男ジェンダーを自認するのは男が多い以上、まだ「フェティシズムは基本的に男のもの」と言えるのではないかと思う。


女性に俗流フェティシズムが現れるケースは様々だろうが、加齢と共にナルシシズムが抑えられ、それまで対象ではなかった物(者)へのフェティッシュな感覚が強くなることはあるのではないかと思っている。自分の場合は、男児の首筋フェチ+αと、若さやあどけなさや瑞々しさといった自分が失ったものへの憧憬との、明確な区別はついていない。
それで記事の最後はあのような書き方になった。別に自己正当化という意識もない。正当化も何も、判断すべき確たる根拠が自分にはない。


セクハラ、ロリコンについて

‥‥‥というわけで、私が男の子に話しかけて少し会話を交わし、その延長線上で襟足の髪をそっと持ち上げて首筋を見たのはセクハラになるのかどうか、自分ではわからない。後ろめたそうにチラ見って時点でセクハラと変わらなくない?というブコメもあった(12/18追記:何故か消えてる)が、そもそも相手が私の視線や振る舞いをどう感じていたか気づいていたかさえ不明な状態*3で、誰がそれをセクハラ、性的嫌がらせと決定するのかもよくわからない。
これは明らかにセクハラになる、つまり相手は何らかの性的被害感情を覚えるはずと意識していれば、決して触れない(ということは確信できる)から、少なくともその時はそうは思っていなかったということになる。


でも、「小さい可愛い子をちょっと構ってみたいという、ごくありふれた欲求だった」とも言えない気はしている。幼い男児の首筋にこんな強い執着を感じたことはそれまでなかったので、自分で変には思った。これは何だろうと。この時点で疾しく思う気持ちがあった気もするし、その時は無自覚で「あれは何だったんだろう」と振り返って後づけをしていた気もする。このあたりは混沌としている。
最近は、顔見知りでも他所の人が「可愛いねぇ」とか言って子どもの頭を撫でたりするのを嫌がる親が多そうだし、不用意に他人に手を触れること自体失礼となりがちなので、そういうマナー的遠慮は多少は働いていたとは思う。
でも最終的には触れた。ちらりと見えている首の後ろをしっかり見たくて、ジャンボカット(と言うんだったあれは)の襟足の髪をこっそり持ち上げた。


記事に書いたのは簡単に言えば以上のようなことだが、それが「セクハラ」と言われることはわかった。これが男女逆だったらもっと非難が‥‥といったブコメのあった点からしても、これをセクハラと看做す視点は確実にあると。
だがセクハラの成立は、それを性的な嫌がらせだと感じた相手の表明に依っているわけだから、これはセクハラとは言えず、むしろ「子どもへの性的虐待」と言うべきではないだろうか。性的虐待はされる側の感情に関わりなく客観的なレベルで成立する点で、セクハラと異なる。ごく幼い子どもは、相手の行為を性的嫌がらせ、性暴力とは明確に認識できない場合があるからだ。
赤の他人の女が少し距離が縮まったのをいいことに、他所の幼い男の子の襟足の髪をそっと持ち上げて首の後ろを見た。それは見知らぬ人による強制的な性的接触という性的虐待であり、人権蹂躙であると。私が「性的加害者」で男の子が「被害者」ならば、そういう理路しか導き出せない。
‥‥‥そこまで考えて何となく「ちょっと待って」という気になったが、何がどう「待って」なのかうまく書けないので次に行く。


その時の自分の態度や心理を、女のスキンシップ欲は男のけがらわしい性欲とは無縁というふうには微塵も思っていない。*4 もしそう思っていればもっと違う書き方になっただろう。スキンシップ欲(と言うより、あの場合鑑賞欲)と倒錯的な欲望の境目は、私の中では曖昧だった。よく吟味すれば、支配欲や所有欲や破壊欲も混じっていたかもしれない。性欲とどこかでリンクするかたちで。
こういう中年女の姿がすげえ気持ち悪い人(12/18追記:先のと同じ人の後で消えたブコメ)は結構いるだろうし、自分でも醜悪に見えると思うので、お見苦しいものを晒してすみませんとしか言えないが、書いて批判が出なければもっと考察してみようということもなく流れただろうから、それはそれでいいかと思っている。


ブコメロリコンについて議論になっていたが、小さく柔らかく綺麗なものに触れたい(フェチ・ナル云々以前の単純な)衝動ロリータ・コンプレックスではない。それだと野の花を摘みたいのも子猫や赤ちゃんに触りたいのもロリコンになってしまう。
しかし「小さく柔らかく綺麗なものに〜」とロリコンが重なる部分はあるだろうと思う。そのあたりもシームレスというかグラデーションになっているのではないだろうか。
性欲と言うと性器と直結して考えられることが多いが、(異性との)性器の結合を求める性器性欲は、性欲の中の一部である。一部と言ってしまうには重要な位置を占めるけれども、それをマジョリティがもち生殖に関わるから中心化されるのであって、人間の性欲は本来「多形倒錯」であり、性器性欲以外の形で現れる欲望、性的嗜好は多様だ。その裾野の方は、性欲とは何の関係もないと思われる欲求とも繋がっているように思う。


ロリコンの人や小児性愛者(この二つはイコールではないが)の気持ちは私にはわからないし、その人達が実際に抱えているだろう息苦しさや生きづらさは自分にはない。ショタコンだという自覚も今のところはない(少なくともマンガなどの表現の方にはあまり興味がない)。
でも幼児と自分の圧倒的な非対称性においては、自分も容易に「加害者」になる立場にいるということは感じている。少し前に例の「セクハラサイコロ」の教師について"愛情"=支配欲だという記事を書いたが、まさしく私は彼を一方的に批判はできないところにいるのだと感じている。あの記事で書いたことの半分以上は、そのまま私の足下に返ってきている。


多種多様な倒錯を含む性的欲望について、ここまではOKでここからはNGというふうに切り分けることはできない。だから社会規範や人権に照らし合わせて行為や表現が批判、断罪されるわけだが、それもここまではOKでここからはNGというふうに切り分けるのがなかなか難しいのは、都条例を巡る騒動を見てもわかる。
もちろん確実にNGとされる領域はある。私のしたことはそこに入るのかボーダーなのかOKなのか。どこから現実の「加害」となって、私とその男の子は「加害者」と「被害者」に切り分けられるのか。正直なところまだ私には(自分の性欲も含めて)わからないことばかりだ。



● 追記
フェティシズムへの傾きの男女の差異について、コメント欄でやりとりしています。記事の補足として発言していますので、目を通して頂けると(そして意見を頂けると)嬉しいです。


そう言えば半年以上前に書いた女をモノ扱いするのは男の仕様、あるいは男の性の脆弱性と所有欲についてで、「女も審美的な目線で男を評価するが、男のそれは女の何倍も強い。女への男のフェティシズムは、男のジェンダーにしっかり刻み付けられている」とか「男のフェティシズムに対応するのは、女のナルシシズムである」と書いているのに対し、ブクマの中で疑問を呈している人が極少数しかいなかった。それで、このあたりの話は一般論(あくまで一般論だが)として概ね受け入れられているのだなと思った。
今回ブコメで疑問を呈している人々及びそれにスターをつけている人々が、前の記事を読んでいるかどうかは知らないが、中心になっている人々(追記:font-daさん除く!‥‥ってちゃんと書いてなくてごめんね!そりゃそう思うよね、すまぬ)の(私への)違和・反発理由は「セクハラ」(?)だけでなく別のところにあってどうにも動かしがたいようなので、もっと丁寧な記事を再度書く手間をかける意味があるかどうか判断に迷う。自著からの引用で記事を作るかもしれない。
それにしても「フェチに男女の差異はない」が持論の人(tororo-imoの人のことね)は、何故コメント欄に来ないのだろうか。そんなに確信があるならどんどん反例を挙げて「非対称だ」というこちらの意見を叩き潰せばいいのに。

*1:もちろん女は全員ナルシストだという意味ではない。傾向の話である。「女性の倒錯は、それが見えないところに見つけ出さねばならない。女性のナルシシズムを一つの倒錯、概念を拡張した倒錯とみなすことができるかもしれない。女性が鏡の前で長々と時間を費やし、ひたすら自分を承認する、つまりおそらく自分自身を<<他者>>として承認しようとするのは、<<女性>>Womanが<<他者>>Othernessそれ自体、あるいは<<他者>>であるからである。たとえこのことが一つの神話だとしても、非常に重要なことである。女性の倒錯は、ナルシシズムのなかに、女性自身のイメージの核に、あるいはフロイトが提唱したように、子どもに、満足の対象として利用される子どもに見出すことができるだろう。」(『ラカン精神分析入門』よりジャック=アラン・ミレールの言葉)

*2:ただしlisagasuさんのブコメ指摘通り、眼鏡萌えの多くは眼鏡をかけた男性に欲情するのであって他の○○フェチとは若干違う。

*3:「くすぐったそうに〜」と見えたのが、私への不快感の徴なのか、フレンドリーなニュアンスなのか、単に動物的な身体反応なのかはわからない。

*4:しかし「男のけがらわしい性欲」って何だろう(この人がそう思っているのではないのはわかるが)。性欲には「けがらわしい」も「崇高」もない。