「原発映画」に関心が集まっているようだ。
ロングラン&拡大公開の放射能ドキュメンタリー映画、大反響の実態は?
放射性廃棄物をテーマにしたドキュメンタリー映画『100,0000年後の安全』。福島原発事故に際し、この秋公開の予定を急遽繰り上げたとか。
東京新聞:特集「25年目のチェルノブイリ」 「原発映画」17本を上映 23日から中野:放送芸能(TOKYO Web)
こっちもほとんどドキュメンタリー映画。ミニシアター系の上映館や公共施設の催しものでの公開が一般的だと思うが、"問題意識"のある人やお勉強好きな人やドキュメンタリー好きな人は来ても、地味な告発・啓蒙映画という雰囲気を察知しただけで足が遠ざかりがちな人は多い。今回はタイミングがタイミングなので、これまで観客層じゃなかった人々もNHK原発特番の延長線で観に行く感じになるんだろうか。*1
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ドキュメンタリーによる啓蒙啓発も良いと思うが、核や放射能への不安や恐怖や無知や諦観や絶望が、これまで物語にどんなふうに描かれてきたかということに、私は興味がある。
冷戦時代は、核戦争の恐怖あるいはその後の世界をモチーフにした映画がよく作られた。『渚にて』、『博士の異常な愛情』、『魚が出てきた日』、『太陽を盗んだ男』、『ウォー・ゲーム』、『アトミック・カフェ』(ドキュメンタリ)、『ザ・デイ・アフター』、『ターミネーター』、アニメは『北斗の剣』、『攻殻機動隊』、『風の谷のナウシカ』‥‥今覚えているのはこのくらいか。
非ドキュメンタリー系「原発映画」では、『チャイナ・シンドローム』、『シルクウッド』、『K-19』(未見)、『東京原発』など(他に「コレ」というのがあったら知りたい)。
核戦争映画と原発映画に共通しているのは放射能汚染への恐怖なので、ここでまとめて「放射能恐怖映画」と呼ぶ。*2
以下、個人的に今テレビでオンエアしてもらいたい「放射能恐怖映画」をメモ(ネタばれ含む)。古い順。おすすめ度は☆で。
『生きものの記録』(1955、黒澤明監督)☆☆☆☆
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放射能の恐怖に取り憑かれたあまり私財を投げ打ってブラジル移住を計画する工場主(三船敏郎)を持て余した家族が、彼を準禁治産者とする申し立てを家庭裁判所に提出する。その調停委員となった歯科医(志村喬)は、現実的な措置と工場主への心情的共感の狭間で悩む。歯科医と息子の会話に、当時の人の意識が現れている。
「お前、原爆だとか水爆、どう思う?」
「何です急に」
「まあいいから。どう思う?怖いかい?」
「そりゃ怖いですよ」
「本当に怖いかい?」
「本当ですよ。誰だって怖いに決まってますよ」
「じゃあ、何でそうやって落ち着いていられるんだい?」
「それは……。だからってどうしようもないじゃないですか」
何度目かの調停で、原爆だの放射能だの言ったって人間いずれ死ぬんじゃないかと言う息子たちに、工場主の父は「死ぬのはやむを得ん。だが殺されるのは厭だ!」と奮然として言ってのけ、判事らも家族もシーンとなってしまう。登場人物の会話が結構突き刺さってくる。
『渚にて』(1959、スタンリー・クレイマー監督)☆☆☆☆
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明るい希望の証であるかのように流れる「ワルチング・マチルダ」。誰もいなくなった街に残っている「兄弟達よ、時間はまだある」と書かれた横断幕。全編救いがないシチュエーションだが、いかにして死を迎えるかについて考えさせられる作品。グレゴリー・ペック、エヴァ・ガードナー、フレッド・アステア(でも踊らない)など俳優の演技が素晴らしい。2000年にオーストラリアでリメイク(『エンド・オブ・ザ・ワールド』)されている。
『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964、スタンリー・キューブリック監督)☆☆☆☆☆
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アメリカ兵が核爆弾にまたがったままB-29から投下されるシーンは、その後いろんなギャグのネタ元になった。二十歳の時初めて見て、毒をもって毒を制す的ブラックジョークのセンスに打ちのめされた。
第二次大戦中の流行歌『また会いましょう』の流れるラストは、私にとっては強烈なアート体験そのものだ。
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手製の防護服で汗掻きながら原爆製作にいそしむジュリー。できあがったやつをサッカボールに見立てて蹴ってみるジュリー。特に、脅迫電話をかけた後、9時を回ってテレビのナイター中継がそのまま続いているのを確認した瞬間の、「やった!! やったやったやったざまみろひゃっっはーーー!!!」(こんな台詞じゃないが)みたいな狂喜乱舞っぷりがすごかった。
いろいろ細かい突っ込みどころはあるけども、突き抜け方がハンパないと同時にこの時代の深いニヒリズムも表現されている傑作。
ラストシーン、新宿を歩くジュリーの頬に光る涙が素晴らしい。
『風が吹くとき』(1986、ジミー・T・ムラカミ監督)☆☆☆☆
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ついに戦争が始まったことをニュースで知ったイギリスの片田舎に住む老夫婦が、政府の啓蒙通り非常時の対策を講じ、地下室で最後まで助けが来るのを信じて待つ。もちろん救済のないバッドエンド。
一見ほのぼのとした絵ヅラで癒し系アニメに見えるのだが、その絵ヅラのままで悲惨な状況展開が淡々と描かれていくところが、じんわり恐怖と絶望を感じさせる。デヴィッド・ボウイの主題歌がいい。
『黒い雨』(1989、今村昌平監督)☆☆☆☆
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今村昌平というと、人間のドロドロした欲望をどぎつく粘っこく描く人というイメージがあったが、これは悲惨さを静かに語りかけるような作り。モノクロのせいもあるかもしれない。武満徹の音楽が不穏感を盛り上げる。知人のお葬式のシーンで頭を下げた時のスーちゃんのごっそり髪の抜けた頭部と、終わりの方の羽織を振り回して叫ぶ一瞬気が触れたの?というシーンに衝撃を受けた。
『東京原発』(2004、山川元監督)☆☆☆☆
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特に前半部、日本の原発事情やその裏の金や政治やこれからのエネルギー問題について、物語を楽しみながら基本的な知識を身につけられる作りになっていて感心した。お勉強系は苦手という人におすすめ(YOUTUBEで観られます)。
娯楽と啓蒙が絶妙にマッチしたこんな原発映画は他にないのに、当時はあまり話題になってない。上にリンクした原発映画上映会にも入ってないし。笑いがあるエンタメだからあかんの?
『USB』(2009、奥秀太郎監督)☆☆
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という非常に興味深い設定と展開で、出演者の顔ぶれも一癖あって面白そうなのに、主人公のキャスティングに違和感があるのと、最初に解説を読んでないと話がわかりにくく、演出にメリハリがなくて全体に舌足らず。ヤクザの娘と逃避行する友達との絡みが浮いている。
最後に、主人公が放射能と共に生きる覚悟をした真っ黒な台詞を言うが、上滑って聞こえるのがもったいない。美しいラストシーンはしみじみとした恐怖を感じさせていいと思った。『東京原発』とは正反対の貴重なダウナー系原発映画なので紹介しておく。