トークライブ登壇のお知らせ

みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018に関連して、東北芸術工科大学で行われる展覧会の関連企画トークライブに登壇します。
AGAIN-STという彫刻を考える集団の一人で、学芸員の石崎尚さんからオファーを頂きました。今回は「カフェと彫刻」がテーマだそうです(https://www.facebook.com/events/1033390630170615/)。
お近くの方は是非どうぞ。この他、いろいろな催しものがあります。
https://biennale.tuad.ac.jp(←公式ページには、本トークイベントの情報はありません)

AGAIN-ST第8回企画「カフェのような、彫刻のような」


●会場=NEL MILL
  東北芸術工科大学 芸術研究棟Cギャラリー(ROOTS & technique)
  〒990-9530 山形県山形市桜田3丁目4−5
●日時=期間中の金・土・日・祝日(9/1, 2, 7, 8, 9, 14, 15, 16, 17, 21, 22, 23, 24) 10:00〜17:00
●出品作家:L PACK.(エルパック)、保田井智之、吉賀伸、AGAIN-ST(アゲインスト)(冨井大裕、深井聡一郎、藤原彩人、保井智貴)
トークライブ:「カフェのような、彫刻のような」
  9月1日16:30〜18:00
  会場:NEL MILL(ROOTS & technique)
  参加者:AGAIN-ST+大野左紀子(文筆家)



以下は、「カフェと彫刻の交わるところ」というお題を頂いて書いた私の文章です(チラシに掲載)。

 この原稿を書いている7月中旬、西日本豪雨災害の状況が連日報道されている。炎天下で片付けに追われる人々。避難所で支給される食事はおにぎりと味噌汁。「コーヒーが飲みたい」という被災者の声には、コーヒーのあった普通の生活への渇望が滲んでいて、避難所の前などに即席のカフェでも開設されれば‥‥と思った。パラソル付きのテーブルがいくつかと、それぞれを囲む椅子4、5脚の簡素な仮設カフェ。
 ところで私の住んでいる愛知県一宮市は、かつて日本で一番喫茶店が多いと言われた街である。戦後、繊維産業で栄え全国から女工の卵が集まっていた頃、街には数えきれないほどの店舗があったらしい。その頃からの習慣か、今でも一日に必ず一回は喫茶店に行くという年輩者が少なくない。新聞を読んだり、顔見知りと地元の情報交換をしたり、仕事の打ち合わせをしたりといった日常の場は、カフェではなく昔ながらの喫茶店である。
 ヨーロッパでカフェ文化が花開く前、人々が情報交換や発信のために集まる場所は広場だった。多くの広場の中心には彫刻モニュメントがあり、共同体のシンボルとして機能していた。「求心力」と「安定性」の象徴である広場の彫刻。その周囲にカフェが出現し、人々の集まり方は分散化していく。カフェ自体も、さまざまな人の出入りによってそれぞれの「かたち」が作られていった。
 広場を中心とした街作りがもともとない日本で、彫刻モニュメントのある場所は「求心力」を持ち得ず、街中のそれはしばしば”彫刻公害”と言われがちだ。度々の自然災害に見舞われる「安定性」に欠けた土地では、屋外だけでなく屋内に設置した彫刻でさえ障害物、危険物となることもある。しっかりした基盤に接する「底面」と「軸」を持ち、一定の「空間」を必要とする彫刻芸術は、さまざまな流動性の中にあっては、かなり難しい表現形式になってきている。
 むしろ彫刻はこの地において、仮設カフェのようなものとしてあり得るのではないだろうか? テーブルや椅子の脚が複数の「底面」を確保し、「軸」の上のパラソルが太陽光を遮る「空間」を作る。一応原理的には、伝統的な彫刻の条件を満たしているはずだ。脇にあるのは、小さい発電機とコーヒーメーカーと水と豆と紙コップ。そこに立ち寄ってはコーヒーを飲んで一息つき、また去っていく人々の動きが、輪郭のないその空間の「かたち」を彫り、刻んでいく。
 彫刻とは決して呼ばれないだろうその彫刻は、被災地に忽然と現れ、しばらくすると消えていく。いつかまた未曾有の大災害に見舞われるであろう日本列島のあちこちで、かりそめの場を提供するパラソルの花が開き、運良く生き延びた被災者の私もそこに辿り着く一人となる。それが、私の夢想する「カフェと彫刻の交わるところ」だ。