スカッとする犯罪コメディで暑気払い(「シネマ〜」更新されました)

あまりの暑さにボンヤリしていて、こちらでの告知を忘れておりました。。


映画から現代女性の姿をpickupする「シネマの女は最後に微笑む」第42回は、2008年の犯罪コメディ『デンジャラスな妻たち』(カーリー・クーリ監督)を取り上げています。原題は『Mad Money』。


棄てる金ならもらってしまえ! 瀬戸際の女たちの横領作戦 | ForbesJAPAN

 

デンジャラスな妻たち [DVD]

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中心的に描かれるのはダイアン・キートンが演じる小金持の主婦ですが、夫のリストラで経済的にピンチとなった時、これまで視界にも入れなかった女達と共闘するところが、この作品の肝だと思います。『Oceans8』ほどカッコ良くなく手口もチープなところが、逆に良い。

なかなか痛快で面白い作品なのに、日本では劇場公開されてないようです。



樹木希林の台詞に隠された深い含蓄を上等なお茶のように味わう『日日是好日』(「シネマの女は最後に微笑む」第41回更新)

映画から現代女性の姿をpickupする「シネマの女は最期に微笑む」第41回は久々の邦画です。

キム・カーダシアンの例のKIMONO騒動を枕に、着物、お茶つながりで樹木希林黒木華が共演した『日日是好日』(大森立嗣監督、2018)。


今わからなくてもいつかわかる。師から教わるお茶と人生の妙味 - ForbesJAPAN

(画像はイメージ)

 

日日是好日 通常版 [DVD]

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原作は、森下典子のエッセイ「日日是好日─『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」。一人の女性の約二十年に渡る歳月が、シーンごとの季節の移り変わりの中で、水彩画のようにスケッチされています。
雨など自然の水の描写、水の音が印象に残ります。水(湯)を使う茶道でも、密やかな水の音が。水音の映画と言ってもいいくらいです。
もちろんお茶のシーンもたっぷり。これを観て「お茶やってみたいな」と思う人はいるのではないでしょうか。
比較的地味な小品といった感じですが、お茶の師匠を演じた樹木希林の台詞の端々から覗く深い知見と含蓄に、時折はっとさせられます。

 

主演の黒木華、少し屈託を抱えた役をうまく演じていますが、ずっとロングヘアなのを最後の方、ショートのカツラで出てくるのが残念。明らかにカツラとわかるので。あそこは着物だし、ロングのまま後ろでまとめるヘアにしてほしかったです。それで20代の頃との違いはちゃんと出せると思うんですよね。
あと、従姉妹役の多部未華子がなかなか良いです。

 

樹木希林は役柄らしく、地味目な無地や小紋の着物で登場。とても自然で楽そうで板に着いた着姿、密かに目標にしたいです。

希林さんの普段の着物はまた個性的で全然違っていたのを、雑誌などで時々拝見しました。来月出る『樹木希林のきもの』が楽しみ。

 

 

シャーリーズ・セロンのプロ根性に驚く(「シネマの女は最期に微笑む」更新されてます)

映画から現代女性の姿をpickupする「シネマの女は最期に微笑む」第40回は、シャーリーズ・セロン主演の『タリーと私の秘密の時間』(ジェイソン・ライトマン監督、2018)。


ワンオペ育児の苦境を、主婦はどうやって乗り切ろうとしたか - ForbesJAPAN

 

 

 一人の女性がワンオペ育児でいかに壊れていくか‥‥はよく描かれているし、「タリー」が登場してからのどこかミステリアスなムードも悪くないですが、作品としてはやや食い足りない印象が残ります。
ワンシーンだけ登場する女友達ヴァイは後々、ヒロインにとって結構重要な存在だったことがわかるのだけど、彼女との関係性が、短い回想でもいいので具体的なシーンとして描かれていたら、終盤もっと胸に迫るものがあったのではないかと思います。

ヒロインの意識に焦点を絞っているためか展開がわりと単線的で、背景の肉付けが薄く感じられるのが残念。


そういう細かい不満を補うのは、シャーリーズ・セロンの好演です。いつも役ごとに体型を作り変えて驚かされますが、この疲弊した主婦マーロの役作りに伴う”肉体改造”、『モンスター』以来の衝撃でした(テキストの合間に、喉やお腹周りに肉のついた劇中の画像と、しっかり元に戻したプレミアの画像が入ってます)。
タリーを演じたマッケンジー・デイヴィスがとてもチャーミング。

007以外でのジュディ・デンチの魅力を堪能(「シネマの女は最期に微笑む」更新されました)

『シネマの女は最後に微笑む」第39回は、年金破綻を政府自らが認めた例の件を枕に、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(ジョン・マッデン監督、2012)を取り上げてます。2も作られているヒット作。


新天地で自分を生かす、勇気ある老女の「第二の人生」|ForbesJAPAN

 


いろんな事情を抱えたイギリスの中高年男女が、滞在先のインドで試行錯誤しつつ、それぞれの再出発を目指す。そこに、インド青年の企業と恋が絡む群像劇。
コメディタッチでかなり多くの要素が盛り沢山なのに、よくまとめた感のあるエンタメです。


同じ中高年ものでも、前回の『エレナの惑い』の鬱展開のリアリズムと比べると、いささかファンタジーっぽいところはありますが、世代や国籍・人種を越えた信頼や友情の芽生えが、生き生きと描かれています。

特に、老人が若者のサポーターになれるところが、とてもいい感じ。

そして、どんな人にもそれぞれ積み重ねてきたものがあり、老いてもきっかけさえあればそれを再度生かすことができるという、希望のある展開に元気が出てきます。


ジュディ・デンチがやはり素敵ですね。なんせ80歳近くになって15歳も下のビル・ナイに慕われるんですから。ドラマの中で、ですが。

現代ロシアの階層差を静かに告発する『エレナの惑い』(「シネマの女は最後に微笑む」更新されました)

告知遅れました(←いつものこと)。。

映画から現代女性の姿をピックアップする映画レビュー第38回は、アンドレイ・ズギャビンツェフ監督の『エレナの惑い』(2011)を取り上げています。
現代ロシアの階層差や性差の生む問題を、一人の中高年女性の”許されざる行為”を通して浮かび上がらせた、鋭利にしてずっしり重い作品。テキストではネタばれギリギリまで書いています。

 

持てる者に依存して生きるしかない、階層社会の生んだ深い諦観 | ForbesJAPAN

 

エレナの惑い アンドレイ・ズビャギンツェフ HDマスター [DVD]

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冒頭の固定カメラの妙に長いシーン、初めて観た時は「なんだろう、このオープニングは‥‥」と思いますが、最後まで見て深く納得。


誰か特定の人間に感情移入させることなく、淡々と出来事が積み重ねられていきます。

殊更興味深く思ったのは、登場する3人の女性(富裕層のウラジミルを夫にもつエレナ、エレナの息子セルゲイの妻、ウラジミルの一人娘カタリナ)の、所属する階層によって生じたであろう性格のくっきりとした差異。


貧しさに甘んじ夫の言いなりになっているセルゲイの妻には、状況を変えようという意志もうかがえず流されている。

一方、カタリナには、自分の位相に甘えまいとする自立心と、父や社会への反骨的な批判精神がある。
その中間にいる不安定なエレナが、どういう知恵に頼ろうとするかが後半見えたところで、「それしかないのか」「ないんだろうな、やはり‥‥」という気分になる。

 

傑作です。未見の方は是非!

 

「間違ったバスに乗っても正しいところに着く」(「シネマの女は最後に微笑む」更新されました)

映画から現代女性の姿をpickupする「シネマの女は最後に微笑む」第37回は、『めぐり逢わせのお弁当』(リテーシュ・バトラ監督、2013)。


「弁当」をめぐる手違いが妻に与えた不安と勇気 | ForbesJAPAN

 

めぐり逢わせのお弁当 DVD

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ほっこり系の邦題にちょっと引く人もいるかもしれませんが、内容にはマッチしています。ミュージカルシーンも大団円もない、しみじみくるインド映画。バトラ監督の初長編作。
インドの都市の弁当配達システムが、なかなか興味深いです。これはうまくできているなと感心。そこである日起きた誤配が、やがて一人の主婦に「正しいところ」を指し示してゆく。
ロマコメかなと思っていると、ユーモアの中にほろ苦い展開が待っています。


インドのポピュラーなお弁当箱でしょうか、大きな水筒のような円筒形で、四段重ねになっているのに惹かれます。
カレーとご飯と煮物やサラダなどのおかずにナン。スパイシーな香りが漂ってきそうで、観ていると絶対カレーが食べたくなります。


女性に焦点を当てているこの連載ですが、内気な中年男サージャンを演じたイルファン・カーンが素敵です。この人が主役と言ってもいいくらい。最初は陰気だけれども、あれ?こんなチャーミングな人だったんだ‥‥と魅力が徐々に開示されていくさまが見どころです。「現役感」が強いので、老いを意識する役としてはもう少し老人っぽくても良かったかな。

本文では触れていませんが、途中で垣間見える主婦イラの母親の人生と、サージャンの部下の青年シャイクのサイドストーリーも、この大人の物語に陰影を与えています。未見の方は是非。

 

男も女も「女」を愛する(「シネマの女は最後に微笑む」更新されました)

こちらでのお知らせ、また数日遅れです。。
映画から現代女性の姿をpickupする「シネマの女は最後に微笑む」第36回は、フランソワ・オゾン監督の『彼は秘密の女ともだち』(2014)を取り上げてます。原題は「新しいガールフレンド」という意味。邦題はやや内容に踏み込んでます。

邦題やDVDジャケットからコメディっぽい印象を受けますが、そういう要素もあるもののコメディではありません。親友を失った女性がその夫(秘密の女ともだち)との関係性を通して、次第に自分の真の欲望に目覚めていく姿を描いています。


異性愛規範を超えて、女が自分の本当の欲望に気づく時 | ForbesJAPAN

 

 

 


本連載でトランスジェンダーの映画を取り上げるのは、『ヘドウィグ&ザ・アングリーインチ』、『ナチュラルウーマン』に次いで3本目。本作は、異性愛者として生きてきた女性の視点から描いているのと、「幻影の支配とそこからの脱却」というテーマがオゾン監督らしく感じます。

主人公の女性の「普通」さ加減が親しみを感じさせるとともに、話がどのように転んでいくのか先が読めそうで読めないので、かなり大胆な結末に驚かされます。

”男も女も「女」を愛する”を地で行く物語。(テキストは例によってネタばれに配慮していません)。


ところで2ページ目の終わりの方、「ドラァグクィーン」と書いたのに、編集の方で「ドラッグクィーン」に直されているのに後で気づきました(今は修正されています)。
英語表記は同じdragなのですが、日本語での「ドラッグ」(薬)という表記と区別して「ドラァグ」(裾を引きずるという意味で女装を表す)と書くのが普通かと思います。発音としてもこちらのようです。


ものを書き始めた頃、こちらの表記ミスはほぼ100%チェックされるものと思っていましたが、編集者も人によって知識の偏りがあったりして、どうしても穴は出るということがだんだんわかってきました。特に「ドラァグクィーン」は、クィアやセクマイ文化に関心がないとピンとこないと思います。