イタい女のイタい話と言えばまずこれ『ヤング≒アダルト』(連載更新しました)

「シネマの女は最後に微笑む」第56回は、シャーリーズ・セロンが主演した『ヤング≒アダルト』を取り上げています。

2011年の作品、結構話題になったのでご覧になった方は多いのではないでしょうか。是非、無料会員に登録してどうぞ。

 

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途中で、ジュリア・ロバーツ主演の『ベスト・フレンズ・ウェディング』と比較してます。

ベスト・フレンズ・ウェディング』については以前こちらで書きました。自筆イラスト付きです。

https://www.cyzowoman.com/2016/06/post_20652_1.html

 

 

毎回、時事ネタや季節ネタなど前振りを書くことになっているのですが、今回はちょっと厳しかったですね。かなりこじつけてますので。

正直に言うと、ストック原稿です。前振りのネタに関わらず、いつでも出せる原稿を用意しています。そこに無理して最近の話題を乗せました。

今ならどう考えても話題は新型コロナウイルスで、パンデミックを主題にしてなおかつ女性が活躍する映画を取り上げるべきでしょうが、今回の締め切りは17日だったのでちょっと出しそびれたのです。。

 

次回の連載は3月14日。もう感染拡大は終息に向かっているでしょうか。それともまだでしょうか‥‥。

いずれにしても次は、パンデミック映画を取り上げます。『コンテイジョン』(スティーブン・ソダーバーグ監督、2011)です。今こそ再見したい作品として、ツイッターの一部で話題になってますね。

ほぼネタバレありで書きますので、未見の方はDVDをチェックしておいてくださいませ。

 

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  • 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
  • 発売日: 2013/02/08
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撒いてしまった種をどのように引き受けるか ‥‥『よこがお』(「シネマの女は最後に微笑む」更新)

いつものように、お知らせ遅くなりました‥‥。

 

連載「シネマの女は最後に微笑む」第55回は、筒井真理子主演『よこがお』(深田晃司監督、2019)を取り上げてます。

観た後いつまでも胸がざわざわする傑作ですね。映画の途中でわかるネタバレについては直接触れないように書いていますが、普通に読んでいくと何となくわかります。でもわかっても、観る価値はあります。ストーリーは大切ですが、それは映画の一要素に過ぎないということを改めて感じる作品です。

「無料会員」登録で全文読める形式となっています。どうぞよろしく。

 

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タイトルの「「無実の加害者」にされた女の絶望と復讐、そして昇華」はあまり捻りがないですが、判りやすさ優先でつけました。「昇華」はかなり踏み込んだ解釈なので、意見が分かれるかもしれません。

同監督の『淵に立つ』(2016)も似たモチーフを扱っており、テーマは「撒いてしまった種をどのように引き受けるか」です。

 

共演は市川実日子。『シン・ゴジラ』を彷彿とさせる化粧気のなさで、難しい役を演じています。

池松壮亮は、中年女の誘惑に易々と乗る内面の見えにくい青年を好演して、宮沢りえと共演した『紙の月』の役柄を思い出させます。

しかし何と言っても主演の筒井真理子がいい。素晴らしいの一言。

 

人生を奪われたという重すぎる事実と比べると、市子(筒井)の復讐があまりにもささやかではないか?という印象もあります。

しかし考えてみれば、彼女の立場ではこれくらいしかやりようがないのですよね。そういう意味ではむしろ悲しいものがあって、そのあたりが狙いなのかもしれないとも。

 

一点気になったところは、最後の方で市子が甥の辰夫と共に大石家を訪ねる場面。これは相手方の心情を考えると、いきなり行ってはいけないですね。もちろん会えないことは前提の上で、辰夫の気持ちを慮ってのことだったのかもしれません。それは市子の優しさなのでしょう。

 

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答えに人より早く辿り着く元・天才児が人間関係の答えで右往左往(「シネマの女は最後に微笑む」更新されています)

連載「シネマの女は最後に微笑む」第54回は、『マイ・プレシャス・リスト』(スーザン・ジョンソン監督、2016)を取り上げています。『Gifted/ギフテッド』(マーク・ウェブ監督、2017)も同じく天才児を扱った作品でしたが、こちらはその天才児の行く末としてより当人に焦点を当てたもの。頭が良すぎるために周囲と軋轢を起こす少女の成長物語。

 

 

 

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主人公を演じるベル・パウリーがキュート。所詮は、そこそこお金持ちのお嬢さんで自分の頭脳の使い途がわからなかった人の自分探しだよね‥‥という見方ができなくもない設定を、本人の少し天然の入った三枚目なキャラでうまくカバーしています。

 

彼女を取り巻く大人たちもそれぞれの問題を抱えているというわかりやすい構図ですが、この作品から読み取れる個人的に最大のポイントは、「室内で男と向かい合っていても何も始まらない。それより窓の外で何かやってるうるさい奴に注目せよ」です。

 

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ダイアン・キートンいいよねぇ、安定の良さです、作品も上質です(「シネマの女は最後に微笑む」更新されてます)

いやー忘れてた忘れてた。すみません。あけましておめでとうございます。先週末に更新された連載のお知らせです。

 

「シネマの女は最後に微笑む」第53回は、ダイアン・キートンモーガン・フリーマンが共演した『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』(2014)。アパートの住まいを売りに出した初老夫婦のコメディです。比較的小粒な作品ですが、主演二人の安定感に加え、風刺も効いていてなかなかの佳作。

 

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まだ売り手が住んでいる最中から、内覧会で買い手候補に家の隅々まで見せる場面がありますが、これは欧米特有のものでしょうか。

日本では、持ち主が出て行った後の家具も何もないガランとした家を見学するケースの方が、多いのではないかと思います。プライベートな状況をいきなり他人に見られたくない人が多そう。

 

実は私も、引っ越し前に住んでいた古い家と土地を売りに出しています。まあ家の価値はもうないので土地だけですが、田舎町なので売れないですねぇ。1年待ちましたが、問い合わせはあってもなかなか。

そろそろ家を壊して更地にし、それでもダメなら格安で不動産屋さんに買い取ってもらうしかないと考え中。

 

しかしダイアン・キートン、『アニー・ホール』の頃から好きですが、息の長い女優さんになったなぁとつくづく嬉しいです。いつも伸び伸びした自由な雰囲気をまとっているところが素敵です。

昔、インテリア雑誌でダイアン・キートンの私邸が紹介されていたのを見ました。広いのは当たり前として、飾り気のないミニマルアートみたいな四角いテーブルがゆったりおおらかな空気を醸し出していて、本人のコメントが「なんでも四角くて大きくて気持ちいい」とあったのが、とても”らしい”と思いました。

 

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります [DVD]

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母と息子だからこその展開、『母なる証明』(連載更新されました)

「シネマの女は最後に微笑む」第52回は、母と息子の密着関係が背後にある事件を前フリに、韓国映画の秀作『母なる証明』(ポン・ジュノ監督、2009)を取り上げています。

「最後に微笑む」のか???という作品ですので、大まかなストーリーを追いつつもラストはボカしました。

 

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深刻な題材であり悲劇を描いているのに、随所にクスリとなってしまう笑いを挿入している脚本が秀逸ですね。韓国の現代社会への視線も透徹したものを感じさせます。

俳優の演技も素晴らしい。キム・ヘジャはもちろん、難しい役を演じた息子役のウォンビンがとてもいい。母親役のキム・ヘジャじゃなくても「母性愛」をくすぐられる人は多いと思われます。

 

本文終わりの方で「精神的な限界状況に耐えきれなかった彼女の姿を通して」というフレーズを入れたのですが、一文が長くなってしまうので削りました。ネタバレとも関係するところではありますが、あそこまで精力的かつポジティブに息子のために奔走してきた母親の心が、最後の最後で折れてしまうことに、やり切れなさと納得感が交錯します。

 

私は子供がいませんが、母と息子には母と娘とはまた別の、特殊な密着感が生まれやすいのではないかと、この作品で改めて感じています。「母親」という立場の難しさについて考えさせられます。

 

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『たちあがる女』/『天才作家の妻 40年目の真実』(連載2回分のお知らせです)

連載「シネマの女は最後に微笑む」の告知、一回飛ばしてしまった分も含めてまとめてお知らせします。

 

50回は、グレタ・トゥーンベリさんよりずっと年上でずっと過激な環境活動家を主人公にした、アイスランドが舞台の映画『たちあがる女』(ベネディクト・エルリングソン監督、2018年)。画像はイメージです。

単にメッセージ性を打ち出したのではない、皮肉とユーモアとファンタジーの散りばめられたちょっと面白い作りの作品。

合唱団の講師を勤める一人の中年女性が、武器を片手に身軽に岩山を駆け回り、ドローンとバトルを繰り広げる。苔の香りがしてきそうな原野のシーンが、冷たくも美しい。

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次いで、第51回は時節柄、ノーベル文学賞受賞作家とその妻の知られざる関係性を描いた『天才作家の妻 40年目の真実』(ビョルン・ルンゲ監督、2017)を取り上げています。

授賞式を前に、夫婦の溝がどんどん明らかになっていくというオソロシイ展開。ジョナサン・プライスグレン・クローズ、安定を崩した夫婦の、安定の演技が素晴らしい。

ストックホルムに到着してからのノーベル賞受賞者が受ける歓待や、日々の過ごし方についての細かな描写も興味深いです。

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加害の引き受けと陥没のエレガンス/藤井健仁展テキスト

鉄を素材に彫刻を作り続けている藤井健仁の個展「ABJECTION X」が、来週から日本橋高島屋S.C.本館6階美術画廊Xにて開催されます。DMに掲載された拙文を、作家の了承を得てこちらに転載します。

 

 

加害の引き受けと陥没のエレガンス               

 

 

労働

 アートと呼ばれるものの輪郭がすっかり曖昧となった現在、絵画と彫刻はそのモダニスティックな形式を依然として維持し、「芸術の場所」を確保しているかに見える。彫刻というオーソドックスなジャンルからスタートした藤井健仁は、その「芸術の場所」が排除してきた様式であるお面と人形を、自身の制作の中心に据えてきた。

 お面とは、顔面に装着することで何者かになり代わるアイテムであり、人形は小さな人型に何者かが託されたものである。いずれも代替物としての役割を果たすがゆえに、何の役割を果たさずとも「芸術の場所」を占めることのできる彫刻にはない通俗性や商業性を帯びることになる。

 藤井が言語ゲームとしての現代アートから距離を取り、積極的にその通俗性、商業性の中に沈潜したのは逆説的にも、「つくる」という行為の強度と、物と手の緊密な関係性を取り戻すためだった。そこで選ばれていた鉄という素材の圧倒的な抵抗感が、「つくる」ことをより過酷で過剰なものにしたのは間違いない。

 過酷な労働によって過剰につくること、それは現代社会において、人々が大なり小なり強制されていることだ。そこでは人は常にある種の「被害者」性の中に拘束されている。が、藤井が目指したのはそれとは反対に、現実の労働にも増して過酷で過剰な制作へと自らを追い込むことで、「加害者」たらんとすることだった。

 

 

鉄面皮

 鉄は暴力を象徴する。報復の私刑が許されないこの社会において、死刑は法=国家の判断に委ねられることになっている。しかし人は社会から押し付けられた「被害者」性に塗れて生きていても、いやむしろその位相を全身で受け止めているからこそ、「復讐してやる」という思いを一度ならず抱くものではないだろうか。その際の武器が銃なのか鈍器なのかは別にして、鉄であることは肝要である。

 鉄を叩きのめすことから、藤井の「彫刻刑 鉄面皮」シリーズは生まれた。モデルたちへのあり余る殺意は「制作の暴力性」に還元され、「刑」を下されたお面はそれぞれの人物の個別性、具体性を限界まで露呈させている。メディアを通して私たちが嫌と言うほど見てきた人々の、抽象化不可能な貌の圧力の凄まじさ。それは、藤井の労働に比例するものだろう。

 労働量と時間の集積が、「復讐してやる」という制御し難い感情をある時点で超えた時、お面は藤井の手を離れ、加害と被害の拮抗する境界面として自律する。

 

 

鉄少女

 鉄人形のシリーズにも、鉄という素材の持つ暴力性と、「つくる」ことの過剰さが通底している。「鉄面皮」と違うのは、鉄少女の顔が皆どれも一切の個別性、具体性を失っているということだ。

 大きく陥没した顔面と、反動のごとく膨れ上がった前頭部。顔の下半分は四角い板状となって反り返り、目鼻口はまるで冗談のように極限まで切り詰められている。

 顔の驚くべき抽象性に対し、体躯は極めて具象的だ。たとえば<<転校生>>シリーズ。なめらかで華奢な手足に、幼女を思わせる胴体。風に舞い上がる長い髪。セーラー服と、翻る短い襞スカート。基本的な造形には西洋人体彫刻のニュアンスを感じさせつつも、採択されている個々のモチーフの組み合せは、この国では、性的欲望の視線に晒されるある「かたち」の一典型と言っていいだろう。

 この、「圧倒的な量の性的視線を受け止める」という日本の少女の存在様式を象徴的に表しているのが、他でもない顔なのである。鉄少女の顔に個別性が欠けているのはそのためだ。鉄を叩く藤井の「制作の暴力性」と「視線の暴力性」は、ここに重ね合わされる。

 あらゆる暴力を受け止めて、少女の顔は陥没した。平たくなった顔に丸く穿たれた目の穴の奥から、彼女は世界を眺めている。ヘルメットのように膨らんだ頭蓋骨で、彼女は自らを防衛する。小さな突起と化した鼻と黒々と割けた口は、稚拙に象られた女性の性器だ。欲望する視線が最後に辿り着きたい場所が、一切隠されず顔面にあるという不意打ち。その裂け目の奥には、ペニスを噛み切る小さな歯が几帳面に並んでいる。異形の相貌は呪術的な仮面めいて、その下にあるものへの想像力を掻き立てるが、彼女に「素顔」はない。

 少女は微笑みながら軽やかに立っている。あるいは全力で自転車を漕いでいる。どんな視線に殴られ顔面を陥没させても、少女は微塵も傷ついていない。「被害者」性が、不穏なまでの自由と強靭さに反転する瞬間のエレガンスがここに刻印されている。

 

 

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