秘密の多い未亡人を演じるダイアン・キートンの軽快さ『ロンドン、人生はじめます』

連載「シネマの女は最後に微笑む」第71回は、『ロンドン、人生はじめます』(ジョエル・ホプキンス監督、2017)を取り上げてます。

 

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ロンドン最大の公園ハムステッド・ヒースで暮らしていたホームレス男性が、裁判の末、土地の所有権を得たという御伽噺のような実話を元にしたヒューマン・コメディ。
主演のダイアン・キートンは、ハムステッドの高級住宅街に住む未亡人を演じています。表向きは優雅に見えるが経済的には逼迫している中、自分と正反対の生き方をしているホームレス男性に出会う‥‥という展開。


緑豊かな公園の自然を捉えた映像が、とても美しいです。邦画だといろいろ思わせぶりな描写が入りそうな中高年の恋愛が、サラリと描かれているところも良い。ユーモアや皮肉もたっぷり。
ヒロインに言い寄る会計士ジェームズがキモいのなんの。特に「ハッピィバースデー」を歌うシーンでは、半笑いで「うえぇ、やめてー」となります。
そしてダイアン・キートン、幾つになってもスタイルをキープしていて、軽快でカッコいいなぁ。

 

呼び方から浮かび上がる関係性‥‥『あなたの名前を呼べたなら』

遅くなりましたー。

連載「シネマの女は最後に微笑む」第70回は、夫や妻の呼称問題を枕として、『あなたの名前を呼べたなら』(ロヘナ・ゲラ監督、2018)を取り上げています。

 

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ブルジョワ息子とメイドの恋愛未満の関係。「病んだ王子と健気な娘」という『美女と野獣』パターンの変形と言えるかもしれません。

二人の間に漂う雰囲気はほのぼのとして、次第に恋心に気づいていくヒロインが可愛らしい。その中で、身分制度がいまだ色濃く残るインド社会の諸相が浮かび上がってきます。


興味深いのは、欧米化された富裕層と伝統的な庶民のライフスタイルが、相対的な視線で描かれている点。対立関係になった相手が最後に味方になるという展開にも、監督のバランス感覚が効いています。

インドの街の賑やかな情景やインテリア、ファッションなど、色彩の配置が美しい。

またインド映画でよく唐突に始まるダンスシーンは、内容に即したかたちでさりげなく挿入されています。

 

今回は、映画の場面の画像が何枚か入ってますよ。おすすめ。

3回の法事のシーンの意味するものは・・・『海街diary』

完全にこちらでのお知らせをした”つもり”になっていました。遅れてすみません。
連載「シネマの女は最後に微笑む」第69回は、久々の邦画で『海街diary』(是枝裕和監督、2015)を取り上げています。

 

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原作の漫画の中のエピソードをピックアップしてまとめてありますが、それにしても、一本の映画の中に三回も法事のシーンを入れた作品も珍しいと思います。もうそれだけで「死」がクローズアップされてきます。
漫画が圧倒的に名作なだけに、比較すると若干の物足りなさは感じられるものの、死者の存在によって生の輪郭が浮かび上がるドラマとして観直してみました。

 

冒頭近く、佳乃が朝、恋人の住む海沿いのマンションから出てきたところで流れる音楽が、『ベニスに死す』に使われたマーラー交響曲第5番・第4楽章アダージェットに雰囲気が似ています。特に出だし。

「死」つながり、なのかなとも思います。漫画になくて映画にあるものの筆頭は音楽(劇伴)なので、意識的に選択されているのかもしれません。

 

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妻が同性愛者とわかった聖職者の決断に注目する『ロニートとエスティ』(連載、更新されています)

「シネマの女は最後に微笑む」第68回は、『ロニートエスティ 彼女たちの選択』(セバスティアン・レリオ監督、2017)を取り上げています。

 

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NYで自由に生きる独身のロニートと、ユダヤ教のコミュニティに住まう既婚のエスティ。正反対の生き方をしている幼馴染の二人が故郷で再会したことから、セクシュアリティをめぐって大きなドラマが展開していきます。
日本人には馴染みのない、戒律の厳しいといわれる正統派ユダヤ教徒の社会が描かれていますが、独身女性に「結婚は?」「子供は?」などと問うのは、日本の社会でもまだ見られる振る舞いかもしれません。

終盤、妻が同性愛者だと知った聖職者の夫の、苦悩の果ての踏ん切りのつけ方が実に見事で、一気に場を攫っていきます。彼が主役だったかと思うほどです。


監督のセバスティアン・レリオは、トランスジェンダー女性を描いた『ナチュラルウーマン』(2017)を撮っている人ですね。

こちらで書いています。

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トニ・コレット姉とキャメロン・ディアス妹のちょっとイタくて沁みる『イン・ハー・シューズ』

連日お暑うございます。
こちらでのお知らせ、遅くなりました。
連載「シネマの女は最後に微笑む」第67回は、『イン・ハー・シューズ』(カーティス・ハンソン監督、2005)を取り上げています。ここのところ、コロナ禍関連の前振りでわりとシリアスな映画が続いていたので、少し息抜き的な感じにしてみました。

 

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正反対の性格の姉妹の成長物語。コメディ味があり脇役もそれぞれ個性的で、なかなか楽しく観られます。シャーリー・マクレーンの貫禄がさすが。
終わりの方の関係修復過程がちょっと上手く行き過ぎかなとは思いますが、C.ディアスの楽しそうな後ろ姿が超チャーミング。


姉はしっかり者で妹はちゃっかり者、あるいは姉がおしとやかで妹がやんちゃ、というパターンが姉妹ものには多い気がしますが、実際はどうなのでしょう。やはり、姉特有の性格、妹特有の性格というものがあるのでしょうか。
自分が二人姉妹の姉なので、姉妹ものはいろいろ突き刺さることが多く、DVD見直しながら離れて住む妹のことを思い出しました。
幼い頃から妹の方が可愛くて愛嬌もありちやほやされてきた(と姉の私から見ると思える)のですが、彼女が私に強烈なコンプレックスを抱いていたと知ったのは大人になってからで、その時はとてもショックでした。
この作品でも昔のアルバムを眺めるシーンがありますが、子供の頃の自分たちの写真を見ると、たった二つ違いでも自分が妹を守るように立っていることが多く、なぜか悲しくなります。

 

 

なりすました女と騙された女の間に浮かび上がる「愛」とは(連載更新されています)

バタバタして告知忘れておりました。すみません。

連載「シネマの女は最後に微笑む」、今回はFaceappの話題を前振りに、「なりすまし」で幸せを得ようとした孤独な女の心理サスペンス『ナンシー』(クリスティーナ・チョー監督、2018)を取り上げています。

 

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初めての長編だというチョー監督の脚本が秀逸です。

ナンシーを演じるアンドレア・ライズボローのリアリティ溢れる演技はじめ、俳優陣が皆非常に良い。個人的には久々にスティーヴ・ブシェミを見て、落ち着いたインテリの役も板についているなぁと感心。

終盤の意外な展開に、深い余韻‥‥。私は泣きました。

 

 

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「モンスター」と言われた女が最後にすがったもの(連載更新されています)

告知遅くなりました。

「シネマの女は最後に微笑む」第66回は、『モンスター』(パティ・ジェンキンス監督、2003)を取り上げてます。無料登録してどうぞ。

 

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1989年~90年のアイリーン・ウォーノスによる連続殺人事件を題材にした作品。公開当時、シャーリーズ・セロンの肉体改造が話題になった作品としても有名。この人は作品毎に大胆に体型を変え、終わるとすぐさま戻しているところが驚異的ですね。もちろんそれ以外に見るべきところはたくさん。

 

「最後に微笑む」というより「不敵な面構えのまま」という底辺の娼婦を演じるセロンがやはり素晴らしいですが、いわゆる鬱展開で、主人公に共感できる部分とちょっとしんどい部分とが交錯します。それが、アイリーンという底辺の娼婦の人物造形にリアリティを与えていると思います。

相手役のクリスティーナ・リッチも、行き場のないレズビアンの若さゆえの残酷さを好演。

 

ところで私は、あの有名な『テルマ&ルイーズ』を、アイリーン・ウォーノス事件を大胆に脚色した作品だと思っていましたが、今回読者の方から指摘を受けて、それは日本で公開当時、配給会社の流した偽情報だったと知りました。

日本版Wikipediaを確認しますと、去年までは偽情報が載っていたのが訂正されています。いやはやすっかり騙されていました。反省しております。

確かに時期を考えると合いませんし、いくら何でも脚色が過ぎます。最初から全然関係ない作品だったのに、『テルマ&ルイーズ』が日本で公開される時にアイリーン・ウォーノス事件が話題だったので、配給会社が話題作りのためにデマを流したと。‥‥ケシカランですね。

 

『モンスター』の方は、事件にかなり忠実に描かれているようです。おすすめ。

 

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