「博士に行ったら就職難」どころか「大学進学=貧乏覚悟」の芸術系

「院に進む人が少なくなってね、TA(ティーチング・アシスタント)のバイトやる子もなかなかいないんですよ」
昨日大学の研究室で、来年度から同じ科目をクラス別で担当することになっている教授が言っていた。芸術大学でも院進学者が減っており、学部で出てさっさと就職したいという学生が増えている。もともとデザイン学部はその傾向があったが、それが全体的になっているようだ。


以前長らく予備校講師をしていた関係で知ったのだが、芸術系の大学ではもう20年以上前から、どの学部や科も女子が多くなっている(たぶん文学部などもそうではないかと思う)。東京芸大は昔から男子が多かったが、今は男女比逆転しているかもしれない。仕事で行っている地方の私立芸大など、ほとんど女子大である。
「大学出たら自活していかないと」というプレッシャーが女子より強い男子は、芸術大学などに進むこと自体、自分で自分の首を締めるようなものだと考えるのだろう。


そもそも芸術系に来るような人は基本的に、「好きなことをいつまでも続けたい」という"我が侭"な人ばかりで、それで食べられる人が極々限られていることも、最初からわかっている。卒業後は、何らかの生業と制作活動を両立させていかねばならないであろうことも、想定済みである。
もっとも学部で出ても、デザインや建築以外のファインアート系で専門を活かせる職種は非常に少なく、中高の美術教員の枠もかなり限定されているので、美術とは直接関係ない仕事に就くか、非常勤や塾のバイトで食いつなぐ、でなければ親にそのまま寄生するということになる。音楽もだいたい同じ。
芸術活動で実績を積み、自分の専門分野の教員の需要もあり、運も良く(ついでに人脈もあり)大学に教員として就職できる人など、大学院進学者全体から見てもごく僅かだ。


私が学部生の頃(30年前)、博士まで行くような先輩を見ていると、とにかくアーティスト志望で、将来大学教員になりたいという考えなどもっていない人ばかりだった。30代半ばまで生活苦に喘ぎ、それを過ぎると突然「売り」に走る(描きたくはないが売れそうな作品を作る)ようなパターンもあったようだ。学部卒でも実情は同じである。その点は今もあまり変わりないだろう。
それでも生き残った人のうちのほんの一握りしか専業アーティストにならないし、なれない。アーティストと名乗る人の大半は兼業。そういうものだと思う。


大学を学部で出て44歳の初めまで兼業アーティストだった私も、一度も就職しなかったクチである。というか、できなかった。もうすぐ50歳になる今、夫も非常勤(予備校、生物)で何の保障もない老後の生活が相当不安だ。
でも(こんなことを書くと怒る人がいるかもしれないけど)、先のことなど考えず、必要最低限しか稼がず、大して需要のない分野で好きなことをしながら人生の三分の二を過ごしてきた以上、最終的に困窮して野垂れ死んだとしても仕方ないかと思い始めている。
やりたいことを諦め仕事に邁進して過労死したり、仕事にあぶれて生活していけない人に「自己責任」という言葉は吐けないが、私の場合は自己責任だからだ。


●追記
たくさんのブクマコメントありがとうございます。いろいろな意見があって興味深いです。
どうも悲惨さを強調したかのように受け取られてしまいましたが、記事中にも書いたように(芸術系は)「そういうものだと思う」し、少なくとも自分に関しては悲惨とも思っておりません。むしろかなり恵まれている方だったと感じています。
一つだけお返事。

id:tsugo-tsugoさん 芸術系の弟が就職できたよかつた。ところで、悲惨話ばっかですが、よい話ってないっすか。

よい話(になるかな)、こちらに書きました。よろしければお口直しにどうぞ。


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