処女喪失

処女とはなにか - nubiangoat


処女礼賛をベースにした男性の文章を読んでいると、「やれやれ」な感じがしてくることが多いのだが、これはあまりそう感じなかった。文体のせいもあると思う。自分に処女信仰があることは認めた上で、その感覚の源を真面目な態度で追求していくこだわりの視線が面白い。

処女とはいったい何なのでしょうか。処女膜に陰茎が達し、粘膜を擦り合わせることがそれほど重要なのでしょうか。僕はなにがなんだかわからなくなってきました。なぜなら、医師の手によって幼いころすでに少女の体内に何かしらのモノが侵入していたのです。それが陰茎であるか、注射針であるか、いったいどれほどの差があるでしょうか。


まだ何ものも侵入したことのない少女の体内に、半ば強制的、暴力的に突き刺されるもの。それが陰茎だろうが注射針だろうが、「少女の純潔が破られた」点においては同じである、と。注射針は体内に何かを注入するものだし痛みもあるから、一層陰茎(の挿入によるセックス)との近似性が浮かび上がってくる。
空気や水や食物を摂取するためではなく、体の中に何かが入ってくる感覚というのは、当人にとってみれば強烈な違和感と恐怖を伴うものである。たとえば歯医者がそうだ。大口開けて笑ったりものを食べたりする時に口の中を他人に見られることがあるとは言え、歯医者では診察台に仰向けになった無防備な状態で、普段人に見せないような口腔の隅々まで見られ、指を突っ込まれ、金属の器具であちこちいじくり回されるのである。治療でなかったら屈辱的である。


しかし時に、それが嬉しい人もいる。高校の時の同級生女子の話。
ある時彼女は満面相好を崩して、歯医者に行くのが楽しみで仕方がないと言った。何故かというと、
「その歯医者さん、すっごい私好みのハンサムでさ。口あーんしてる時、指が近づいてくると、もうチュッて吸い付いちゃおうかなってw」。
それヤバいよ。なんか知らないけどヤバい。‥‥というかエロ過ぎる。


私の「処女喪失」は、まったくエロくも何ともなく、どちらかというと屈辱的なものであった(これ以降、やや生々しい描写がありますので厭な方はスルーして下さい)。


19歳くらいのまだ処女だった頃、生理不順に悩んでいた。4ヶ月に一回くらいしか来なかった。これはどこか悪いのではないかと心配になり、母にも「一度行っておいたら?」と言われて大学病院の婦人科に初めて行った。
医者(中年の男性)に話をしたら診てみましょうということで、個室になっている診察室に入った。細長い診察台があって下半身のところでカーテンで区切られている。そこに下を脱いで横たわれと言われた。両足は、診察台の両脇にある一段高い台に載せないとならない。つまりすっぱだかで大股開きの下半身を、カーテンの向こう側に晒すわけである。婦人科の診察はそういうものだということを、そこで初めて知った。
厭だなあと思った。そんな無防備な姿勢で他人に性器をじろじろ見られるのは、正直とっても抵抗があった。でもここまで来て「厭なので帰ります」とも言えない。内診してもらうのに恥ずかしがっても仕方がない。


屈辱的な格好で横たわると、女性の看護士らしき人が「失礼しますね」と言って、性器のあたりを消毒ガーゼが何かでそっと拭いた。うわ、冷たい。それから医者が来て、「ちょっと見るからね」と言った。人の指と何か冷たい器具が性器に触れた。「はい、力を抜いて楽にして」。
無理です、先生。生まれて初めて他人に性器を見られ触られているのに、リラックスなどできるわけがない。
指と器具が中に押し入ってきた。痛い。すごーく痛い。ぎゅっと目を瞑り、奥歯を噛み締めて我慢した。
その時私は気づいたのである。カーテンの向こうに、先生と女性の看護士だけでなく、何人もの人がいる気配に。スリッパを引きずる音、囁き合う声、その中に微かに、だがはっきりと複数の男性の含み笑いも聞こえた。
ここは大学病院である。先生(教授)の診察を見学している何人ものインターンがいたのである。


「はい、いいですよ」と言われて診察台を降りた。性器全体がズキズキ痛かった。診察室を出て歩こうとしても、股の間に何かが挟まっているようで、普通に歩けなかった。
カーテンの向こうで何人の人が私の剥き出しの性器を眺めていたのだろうか。「これ、処女じゃないの?」と囁き合っていたのではないだろうか。だってすごく緊張していて痛かったし、器具がなかなか入らなかったもん。‥‥‥あーあ。
変な歩き方のままで、ゆっくり病院の階段を降りた。エレベーターで他人と一緒になるのは厭だった。
実際にセックスして処女喪失したわけじゃない。でも初めて中に、半強制的に異物が侵入したことは確かだ。それだけでも19歳処女にとっては大きな出来事なのに、それを複数の人に、もしかしたらニヤニヤしながら観察されていたらしいのが、なんだかとてもとても悔しい。
私のまんこを断りもなく見るなよ。処女だからってよってたかって観察なんかするなよ。
病院の一階ホールに着いた時、私は痛いくらい唇を噛んでいたのに気づいた。