今は昔の映画館・・・羽島市映画資料館に行く

岐阜県羽島市の国道151号から西に入り名鉄竹鼻線の踏切を越えたところの、細い路地の両脇に小さな商店や住宅が軒を連ねる町の中に、突然という感じで羽島市映画資料館がある。ここに来るのは二回目。たまたま車で近辺を走っていて見かけた「映画資料館」の表示に、好奇心をそそられて行ってみたのが初めだった。
建物自体はこじんまりとしていて、展示スペースは一階と二階合わせて3つ。羽島市歴史民俗資料館も一緒になっているので、民具や昔の生活用品などの展示もある。映画関係では昔の映写機や古い邦画のポスターや資料など。昭和20年代から30年代のものが多い。資料館HP
ちょうど一階の企画室の展示替えの最中でその観覧ができないということで、入場料300円を只にしてくれた。



二階の資料展示室。ものすごくデカい映写機が並んでいる(館内は撮影禁止ではなかったので携帯で撮った。粗いのはご容赦を)。
施設内の展示の様子はこちらで見られる。


常設展示も時々模様替えをしているようで、前に来た時は片岡千恵蔵演じる「多羅尾伴内」の手書きポスターがたくさん飾ってあった。片岡千恵蔵がスクリーンで活躍したのは私の生まれる前だし、「多羅尾伴内」が後にテレビ番組化されたのも知らないが、私と同学年(58年生まれ)の夫は何故かよく知っているようで「七つの顔をもつ男、知らんの? ある時は片目の運転手、ある時は異国の大富豪、しかしてその実態は‥‥」と妙な声音を作って言った。
今回は、森繁久彌美空ひばりの特集だった。これまた何故か夫は詳しいのだが、私はあまり知らない分野だ。森繁の社長シリーズをBSで数本見たくらい。東映らしくチャンバラ映画のポスターもたくさんあった。昔はみんなチャンバラ映画大好きだったんだなと思う。
「あれ、この人松方弘樹?」「それは近衛十四郎松方弘樹のお父さん」
お前さん、いったい何年生まれだい‥‥。


この資料館の建っている場所には、10数年前まで古い映画館があった。展示されているコレクションは、その映画館が所蔵していたもの。以下、wikiから引用。

かつてこの地には1934年(昭和9年)に開館した竹鼻朝日館という映画館があり、羽島郡竹鼻町(現羽島市)の中心的な映画館として賑わった。竹鼻朝日館は1958年(昭和33年)に竹鼻朝日東映と改称。映画の斜陽化により1971年(昭和46年)に閉館したが、映画館の建物は約30年にわたりそのままとなっていた。
1992年(平成4年)、この旧竹鼻朝日館から昭和30年代のものを中心に、大量の映画ポスターや当時販促物、大型看板が見つかり、地元を中心に建物の保存運動がおき、地元住民のみならず、CBC小堀勝啓アナウンサーなども保存活動を呼びかける。羽島市は財政難を理由に竹鼻朝日館の保存を断念し、取り壊した。羽島市はこの貴重な映画資料の保存を決め、羽島市歴史民俗資料館・羽島市映画資料館をこの地に開館する。
実際には竹鼻朝日館の建物は堅牢な構造であり、保存は可能であったという。このため当時は羽島市に対して非難の声があがった。羽島市は1922年(大正11年)建立の芝居小屋「八千代劇場」の保存問題でも、保存が可能にも関わらず財政難を理由に1995年(平成7年)に取り壊し、再び非難を受けてしまう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/羽島市歴史民俗資料館・羽島市映画資料館)


昔の建物内に往年の映画ポスターが飾られていたら、同じひっそりしているのでももっと趣があっただろう。岐阜県は保守王国で土建屋が強いから、保存よりスクラップ&ビルドに流れたのだと思われる。
1930年代(昭和5年〜14年)は日本の映画産業の胎動期であり、戦前から戦後にかけて竹鼻朝日館が開館していた時期は、ちょうど映画館にもっとも客が入った時代と重なっている。
こちらの資料によれば、昭和7年の東京市内(当時は「都」ではなく「市」)には99館の映画館があったという。大阪市は114館、愛知県は53館。昭和32年には全国に6675館もの映画館があり、東京都573館、大阪府398館、愛知県281館。
だがこれ以降、テレビの普及で急速に映画館は寂れていく。私の今住んでいる愛知県一宮市も、一頃は10館もの映画館があったらしいが、今は一館もない。小さな封切り館が、昔の映画を安く上映する名画座となっていつまでも残るケースも少ないのだろう。



展示室に飾ってあった朝日館の建物模型。
時々洋画も併映していたようだ。今は毎月第二土曜だけ、往年の映画の上映会がある。



右:「色白の素肌美をあなたへ‥‥」 化粧品の宣伝に出ている原節子。1944年という戦時中にしては電髪なのがなんとなく不思議な気も。
左:『ダニー・ケイの新兵さん』(1944年)。ダイナ・ショアと共演したダニー・ケイの初出演作の紹介。日本で公開になったのは55年。



右:『にあんちゃん』。ベストセラーとなった10歳の少女の日記の映画化。今村昌平監督、1959年。長門裕之が兄を演じている。
中:『カサブランカ』(1942年)の輸入ポスター。日本での公開は1946年。
左:『源氏久郎颯爽記 白狐二刀流』。チャンバラ映画で有名な加藤泰監督、中村錦之助主演、1958年。



森繁特集。リアルタイムで観た人には懐かしいだろうな。私が70歳過ぎてSWシリーズのポスター見るような気分か。



高峰秀子の若かりし頃の生写真(上のアルバム)がざくざくと。


一階のホールに、京橋のフィルムセンターのちらしがあった。来月、2009年に上映した映画のアンコール特集が組まれ、3日と10日に『人情紙風船』の上映がある。去年、山中貞雄生誕100年記念で上映され評判が良かったようだ。
http://www.momat.go.jp/FC/kyobashi-za20/kaisetsu.html
成瀬巳喜男の『流れる』や溝口健二の『雨月物語』も。実はどれもフィルムでは未見なので、もう少し近くに住んでいたら是非行きたいところ。東京方面でご興味のある方は是非。