インターハイ女子バスケ初観戦記

外に出るとバターのように溶けてしまいそうな暑さですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
外飼いのうちのワンコも、日の高い間はさすがに家の中に入れてやっています。犬が溶けて虎のバターになったら悲しいですからね。



先月末、インターハイ女子バスケットボールの試合を見に行ってきた。夫の赴任先の、新潟は開志国際高校の応援。昨年創立の新設校で、アスリートコース(アメリカンフットボールラグビー、バスケットボール、陸上、卓球、ゴルフ、スノーボード)と医大コースと国際コースの三つがあり、今のところはまずアスリートコースで有名校になることを目指しているらしい。
バスケの生徒も、全国から来ている。埼玉県から中学は名古屋の若水中(女子バスケで有名)に来て、高校は新潟の開志国際という生徒。「強豪の桜花学園を倒すため、桜花を蹴ってここに来た」という女子もいるそうだ。身長193センチのセネガル出身の女の子も。男子バスケ、陸上や卓球にも海外からの留学生がいる。エージェントが選手をスカウトし、各高校に紹介するのだ。
夫は理科の教員として雇われたのだが、スポーツはするのも見るのも大好きな体育会系なので、時々生徒の試合の応援に行っているようだ。


開志国際の女子バスケ部は、開校した昨年度の一学期、一年生だけで県大会に出場。ところがその二日前に監督の先生が急死してしまい学校は大混乱、指導者を突然失うという甚大なショックの中でチームは試合に臨んだ。
選手も必死、応援席も必死、ものすごい盛り上がりの中で勝ち進み、優勝。夫は生徒たちと泣きながら抱き合って喜んだという。まるでドラマみたいだ。地元紙も大きく取り上げていたらしい。
この時、亡くなった先生に替わって女子チームを指導したのが、男子の方の監督も務める総監督の富樫英樹先生。バスケットボール選手の富樫勇樹のお父さんで、日本バスケットボール界の名将である。
こうして女子バスケは昨年夏のインターハイに続き、冬のウィンターカップにも新潟代表で出場した。いずれも二回戦で敗退しているが、なにしろ全員一年生で選手の層が他校より圧倒的に薄いので仕方ない。


今年も新潟県代表となった開志国際の女子バスケ部。インターハイが今夏は京都で行われる関係で、名古屋近郊の自宅に帰ってきている夫に誘われ、私も一回戦の応援に行くことにしたのだ。
夫によれば、「一回戦はまあ20点差くらいで勝てる。今年の目標は二回戦を勝つことだが、それも順調に行けば勝てるだろう。でも、岐阜女子と当たることになる三回戦はムリ。うちの一番手の選手が全日本のU-16日本代表でインドネシアに合宿に行ってていないし、相手は優勝候補。大差で負ける予定」。
監督みたいなことを言うておる。
選手たちに差し入れるバナナをたくさん買い、新幹線で京都へ。ホテルにチェックインしてから山陰線で亀岡へ。うだるような暑さだ。バスに乗り換えて、やっと会場となっている京都学園大学の体育館に辿りつく。


体育館の廊下で、ややお年を召した紳士を紹介される。日本バスケットボール界の重鎮でアルビレックス新潟のヘッドコーチ、中村和雄氏。開志国際にはアドバイザーとして来ているとのこと。次いで、今年就任した女子チームの若い監督とコーチの先生を紹介される。
夫の姿を見つけた生徒(たぶん1年生で出場メンバーに入ってないバスケ部員)の一人が飛んできて、「始まる前に観客席に誘導しますっ」。顔がちっさいわ‥‥。いい具合に暖まったバナナをトレーニングルームの選手たちに届ける。あ、来た来たという顔をされる。みんなかわいい。
「学科の教員でここまで出張って試合の応援に来る人、他にもいるの?」
「俺だけ」
だろうと思った。


体育館の中は、全国から娘のチームの応援に集まった父兄たちや高校バスケ関係者で、冷房も利かないくらいの熱気だった。応援席の後ろの通路にも大勢が立って観戦している。廊下の隅では、疲れて寝ている子どもがいる。心無しか、父兄たちの身長が平均より高い気がする。時々上がる「キャーッ」という耳をつんざくような歓声。女子バスケだからか、応援団の声も黄色い。
暑さと人の多さで頭がクラクラしてきた。なんだか大変なところに来てしまった。非体育会系でスポーツ観戦はたまにテレビだけの私、完全なアウェイ感。
開志の試合が始まるまでまだ時間があるので、どっか涼しいところで休もうと、体育館を出て学食で涼む。


さて、初めてナマで観戦するインターハイの女子バスケ。対戦側の千葉経済大附属高校の応援席からは何枚もの応援垂れ幕が下がり、壁際には部員たちがずらりと並んでいる。
「こっちは垂れ幕とかないの?」
「そういうクサいことは、うちはしない方針」。さいですか。
第一セットから順調に得点し、徐々に点差を広げていった。長い腕で相手のシュートを上から叩き落とすセネガル出身のソカナ選手。ミスした時にテヘッという表情になるのが愛嬌だ。山形出身の双子の船生選手もすばらしい動き。
子どもたちのファインプレーに湧く父兄席。が、四六時中うるさいのは隣の夫。「回せ回せ!」「行けーっ」「そろそろ一年生出せーっ」。何度も言うけどあんた監督か。


68-44で勝った。
あまりバスケに詳しくない私だが、パッと見はまだ幼さの残る顔の十代半ばの女の子たちの、全身バネのような俊敏な動き、素早いパス回しや稲妻のようなドリブルを目の当たりにして、気分が昂揚した。何にしろ、真剣にプロを目指す人たちの超真剣な顔つきは、見ているこちらの気持ちも引き締まる。
「ソカナ、入って来た時はすごい下手糞だったのに、よくチームに馴染んでメキメキ上手くなった。今やエースだもんな」と夫。「それにみんな、試合しながら経験値が上がってきてて、思ったより落ち着いてたわ」。
夜は先斗町で、富樫先生と三人、おいしいお酒を呑んだ。



試合後の勝者記念撮影の瞬間。



翌日、夕方からの第二試合を見る夫を残して、私は帰った。後で聞くと、会場の横大路運動公園体育館前では、勝たねばならない試合で負けてしまったらしいチームの生徒や父兄が、そこここで泣いていたそうだ。なんかすごい光景だ。
開志国際は、秋田の湯沢翔北に78-59で勝った。二回戦まで勝つという目標を達成し、三回戦はどうせ負けるということで、夫はその夜、富樫先生と一緒に新幹線に乗った。先生は東京回りで新潟へ。
「バスケは番狂わせがないからな。実力がそのまま出るし」
「ほぼ負けるとわかってる試合をやるの、辛いだろうね」
「スポーツはそういうもんだ」


その翌日。美容院に私を迎えにきた夫が、車の中で「えれぇことになっとる」と言った。対・岐阜女子戦の結果をスマホで見ると、2セット終わったところで、僅か1点差を追っているではないか。
「ほとんど互角じゃん。大差で負け確定じゃなかったの?」
「これは番狂わせがあるかもしれん」
昨日と言ってることが違うがな‥‥。しかし相手は優勝候補の強豪校、3、4セットでぐんと引き離されるのではないか。
まもなく、3セット目の結果が出た。
「うわ取った、同点になった」。夫はハンドルを握ったまま、「すげー!あいつらすげー!女子すげー!!」を連発した。
「ここでもし勝ったら、どえれぇことだぞ!! ソカナ、一発決めてくれ!!!」。わかったから、落ち着いて運転してくれ。
「岐阜女子、最初のセット取られて焦ったろうね。勝てる相手と見てたのに」
「うちはノーマークだったからな。こんなことなら三回戦まで残って応援してくるべきだったなー」
「そしたらたぶん今頃、喉潰れてるね」


結局、62-61で負けた。すごいことだと思う。伝統のない高校、一番手の選手を欠き三年生もいないチーム、新米監督という条件下で、ここまで闘えたのだから。
その後、岐阜女子は四回戦、準決勝と勝ち進み、明日、愛知の桜花学園との決勝戦を迎える。
愛知県人としては桜花を応援したいところだが、開志国際と競り合った岐阜女子に勝たせたい。



●8/3追記
44-40で、岐阜女子、優勝ならず。第3セットまでは同点だったので残念。桜花学園はインターハイ4連覇、21回目の優勝とな。