『イーディ、83歳 はじめての山登り』、『グレタ』について書きました(連載更新されています)

Twitterの方をご覧の方はご存知と思いますが、某救援会に参加した3週間ほど前から突然多忙になり、「シネマの女は最後に微笑む」第74回更新のお知らせをコロッと忘れていました。ごめんなさい。

ですので、今回は連載2回分の告知をまとめてします。

どちらも、「この女優だからこその作品」だと思います。

 

 

 ◆『イーディ、83歳 はじめての山登り』(サイモン・ハンター監督、2017

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イギリス映画です。8384歳という同い年でイーディを演じたシーラ・ハンコックの、豊かで繊細な表情が素晴らしい。ほとんどそれに尽きると言っていいでしょう。スコットランド、ハイランド地方の美しく雄大な自然に、深くシワの刻まれたハンコックの風貌がよく映えています。

彼女は1933年生まれ。演劇やミュージカルから出発し、トニー賞ローレンス・オリヴィエ賞に何度もノミネート。映画、テレビドラマに数多く出演し、映画とテレビの女性賞で2010年の英国生涯功労賞を受賞しています。

イーディをサポートする役のケヴィン・ガスリーも好演。祖母と孫ほど世代の離れた者の間に、次第に生まれていくシンパシーと情感がしみじみと伝わってきます。

 

 

 ◆『グレタ』(ニール・ジョーダン監督、2018) 

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アイルランドアメリカ合作のスリラー映画。イザベル・ユペールがダーティ・ヒロインであるグレタを演じています。

個人的にユペールのファンで彼女の作品はほぼ全部観ていますが、メンタルを病んだピアノ教師の『ピアニスト』や、レイプ被害を受けるゲーム会社社長の『エル ELLE』など難しい役を演じてきた彼女のことなので、このヤバい初老の女の役も余裕でこなしています。

共演のクロエ・グレース・モレッツの愛らしいルックスは、怖がる演技がよく似合います。また、ニール・ジョーダンの作品によく出演しているスティーヴン・レイが最後の方で登場。この人が主演した『クライイング・ゲーム』(1992)、良かったですね。

アッパーミドル主婦の性的混迷をシニカルに描く『午後3時の女たち』(連載更新されました)

お知らせ、遅くなりました。

「シネマの女は最後に微笑む」第73回は、アメリカ大統領選の報道で耳タコなほど聞いた「分断」という言葉を枕に、『午後3時の女たち』(ジル・ソロウェイ監督、2013)を取り上げています。

 

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物理的にはほぼ満たされているけれども、平穏な毎日に退屈し、性欲と被承認欲を持て余した専業主婦を主人公に、アメリカのアッパーミドルの市民の日常をシニカルかつユーモアを交えて描いたドラマ。

ここに登場する階層は、日本で言うと世帯年収800万〜1500万、持ち家と車を所有し大都市近郊に住む比較的高学歴でリベラルな層、というイメージです。
ヒロインの属するのはユダヤ人コミュニティですが、ママ友の一人にはアジア系女性もおり、皆既婚で子供は二人目を持とうかという年代。お金持ちというほどではないけれども、生活ぶりには余裕が感じられる。


30代後半で子供もいて、しかし学生気分も少しひきずっていて、夫たちはIT関係のベンチャー企業やクリエイター系の仕事で、休みの日はおじさんバンドで練習したりサーフィンしたり。日本だと湘南や藤沢あたりに住んでいる感じなのかなと。

 

主婦レイチェルを演じるキャスリーン・ハーン、ちょっと脇が甘く、なかなかイタいところも曝け出す役を演じて、しかし下品にはならず好感が持てます。
ダンサーでセックスワーカー若い女マッケナを演じるジュノー・テンプルは、小柄で妖精みたいな雰囲気がチャーミング。妖精が小悪魔に変貌していくところも見所です。
テキストでは言及していませんが、精神分析医の初老の女性のキャラも面白いアクセント。

少しずつ予想を裏切る展開に引き込まれます。おすすめ。

ブラックな笑いが満載の犬も食わない『おとなのけんか』(連載更新されました)

「シネマの女は最後に微笑む」第72回は、『おとなのけんか』(ロマン・ポランスキー監督、2011)を取り上げてます。誰も「最後に微笑」まないけど、アイロニーに満ちた非常に面白い作品ですね。

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元は舞台で脚本が秀逸。子供の喧嘩で片方が怪我をした‥‥そこから始まる被害者両親と加害者両親の話し合いが、次第に泥沼に。最初は互いに牽制し合い気取っていたものの、次々と思わぬ綻びが。
ジョディ・フォスタージョン・C・ライリーのリベラル夫婦と、ケイト・ウィンスレットクリストフ・ヴァルツネオリベ夫婦の対比の中で、徐々に浮かび上がる夫婦問題の描写も、実に皮肉が効いています。

失笑する場面多数。9年前の作品でありながらまったく古さを感じさせずリアルです。
特にJ.フォスターとK.ウィンスレットは、よくこの厭な役を堂々と演じ切ったなと感心。


テキストでは三つの対立関係を抽出して整理しました。読んでから見ても十分楽しめます。
未見の方は是非!

秘密の多い未亡人を演じるダイアン・キートンの軽快さ『ロンドン、人生はじめます』

連載「シネマの女は最後に微笑む」第71回は、『ロンドン、人生はじめます』(ジョエル・ホプキンス監督、2017)を取り上げてます。

 

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ロンドン最大の公園ハムステッド・ヒースで暮らしていたホームレス男性が、裁判の末、土地の所有権を得たという御伽噺のような実話を元にしたヒューマン・コメディ。
主演のダイアン・キートンは、ハムステッドの高級住宅街に住む未亡人を演じています。表向きは優雅に見えるが経済的には逼迫している中、自分と正反対の生き方をしているホームレス男性に出会う‥‥という展開。


緑豊かな公園の自然を捉えた映像が、とても美しいです。邦画だといろいろ思わせぶりな描写が入りそうな中高年の恋愛が、サラリと描かれているところも良い。ユーモアや皮肉もたっぷり。
ヒロインに言い寄る会計士ジェームズがキモいのなんの。特に「ハッピィバースデー」を歌うシーンでは、半笑いで「うえぇ、やめてー」となります。
そしてダイアン・キートン、幾つになってもスタイルをキープしていて、軽快でカッコいいなぁ。

 

呼び方から浮かび上がる関係性‥‥『あなたの名前を呼べたなら』

遅くなりましたー。

連載「シネマの女は最後に微笑む」第70回は、夫や妻の呼称問題を枕として、『あなたの名前を呼べたなら』(ロヘナ・ゲラ監督、2018)を取り上げています。

 

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ブルジョワ息子とメイドの恋愛未満の関係。「病んだ王子と健気な娘」という『美女と野獣』パターンの変形と言えるかもしれません。

二人の間に漂う雰囲気はほのぼのとして、次第に恋心に気づいていくヒロインが可愛らしい。その中で、身分制度がいまだ色濃く残るインド社会の諸相が浮かび上がってきます。


興味深いのは、欧米化された富裕層と伝統的な庶民のライフスタイルが、相対的な視線で描かれている点。対立関係になった相手が最後に味方になるという展開にも、監督のバランス感覚が効いています。

インドの街の賑やかな情景やインテリア、ファッションなど、色彩の配置が美しい。

またインド映画でよく唐突に始まるダンスシーンは、内容に即したかたちでさりげなく挿入されています。

 

今回は、映画の場面の画像が何枚か入ってますよ。おすすめ。

3回の法事のシーンの意味するものは・・・『海街diary』

完全にこちらでのお知らせをした”つもり”になっていました。遅れてすみません。
連載「シネマの女は最後に微笑む」第69回は、久々の邦画で『海街diary』(是枝裕和監督、2015)を取り上げています。

 

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原作の漫画の中のエピソードをピックアップしてまとめてありますが、それにしても、一本の映画の中に三回も法事のシーンを入れた作品も珍しいと思います。もうそれだけで「死」がクローズアップされてきます。
漫画が圧倒的に名作なだけに、比較すると若干の物足りなさは感じられるものの、死者の存在によって生の輪郭が浮かび上がるドラマとして観直してみました。

 

冒頭近く、佳乃が朝、恋人の住む海沿いのマンションから出てきたところで流れる音楽が、『ベニスに死す』に使われたマーラー交響曲第5番・第4楽章アダージェットに雰囲気が似ています。特に出だし。

「死」つながり、なのかなとも思います。漫画になくて映画にあるものの筆頭は音楽(劇伴)なので、意識的に選択されているのかもしれません。

 

 超おすすめ!

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妻が同性愛者とわかった聖職者の決断に注目する『ロニートとエスティ』(連載、更新されています)

「シネマの女は最後に微笑む」第68回は、『ロニートエスティ 彼女たちの選択』(セバスティアン・レリオ監督、2017)を取り上げています。

 

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NYで自由に生きる独身のロニートと、ユダヤ教のコミュニティに住まう既婚のエスティ。正反対の生き方をしている幼馴染の二人が故郷で再会したことから、セクシュアリティをめぐって大きなドラマが展開していきます。
日本人には馴染みのない、戒律の厳しいといわれる正統派ユダヤ教徒の社会が描かれていますが、独身女性に「結婚は?」「子供は?」などと問うのは、日本の社会でもまだ見られる振る舞いかもしれません。

終盤、妻が同性愛者だと知った聖職者の夫の、苦悩の果ての踏ん切りのつけ方が実に見事で、一気に場を攫っていきます。彼が主役だったかと思うほどです。


監督のセバスティアン・レリオは、トランスジェンダー女性を描いた『ナチュラルウーマン』(2017)を撮っている人ですね。

こちらで書いています。

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