『真実』と『チア・アップ!』を紹介(連載更新されました)

最近、2本まとめてのお知らせになっておりますね。どうもバタバタしていていけません‥‥。
ForbesJapanで連載の映画コラム「シネマの女は最後に微笑む」も、もう79回。なんとか100回を目指して頑張りたいと思います。

 


◆『真実』(是枝裕和監督、2019)

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「あの是枝監督がパリでドヌーヴを撮る」というだけで話題沸騰!みたいな感じですが、日本での興行成績はどうだったんでしょう。どっちかと言うとクロウト受けする作品だったと思います。
俳優陣が超豪華です。劇中劇があり、女優の母と脚本家の娘の関係が映画の形式に重ねられていく、という面白さ、妙味がこの作品の肝だと思います。
そして何といってもドヌーヴのラスボス感! この人に、「泥も被ったし「女」も武器にしてきたわよ、それが何か?」と言われて言い返せる人はいないでしょう。

 


◆『チア・アップ!』(ザラ・ヘイズ監督、2019)

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これまで何度かダイアン・キートンの出演作を紹介していますが、最近は年齢柄、老後の過ごし方がテーマになっているのが多いですね。
ユニセックスなファッションの似合う痩身を保ってきたキートンが演じるだけに、どの作品にも独特の軽やかさが漂っていましたが、この作品ではそれが「もうちょっと太っていた方が健康的に見えるなぁ」という印象を与え、それでも元気一杯な彼女を堪能した後で、ああついに‥‥と。笑えて元気になるコメディだけど最後のしみじみが効いています。

 

『私のちいさなお葬式』と『タイピスト!』を紹介(連載更新されました)

あけましておめでとうございます。ほとんどweb連載の告知しかしてない本ブログですが、今年もよろしくお願い致します。

年末のバタバタで、またしても先月の最後の告知を忘れておりました。今回も2本まとめてのお知らせです。

 

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一本めは、『私のちいさなお葬式』(ウラジーミル・コット監督、2017)。ロシアの片田舎、余命が短いことを知った老婦人が巻き起こす小さな騒ぎをユーモアたっぷりに描いていますが、徐々に喜劇の枠には収まりきらない重く普遍的なテーマが浮上。

原題は『解凍された鯉』。あの鯉がそうか、こういうことになるのか‥‥とわかった後で、深い余韻を残す素晴らしい作品です。

ザ・ピーナッツの『恋のバカンス』ロシア版が重要な曲として登場します。歌詞は違っていますが、ロシアでウケたメロディなんですね。なんとなくわかる気が。

外国映画の中で突然日本の曲が流れて驚くというパターンでは、アキ・カウリスマキの『ラヴィ・ド・ボエーム』の最後でかかる『雪の降る街を』があります。あれは日本語そのままで、結構びっくりします。日本のマイナーコードの曲は、北の国の人々のメンタリティにどこかマッチするのかもしれません。

 

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次は、『タイピスト!』(レジス・ロワンサル監督、2012)。1950年代末のパリを舞台に、地方出身のヒロインが「タイプライターの早打ち」で世界一を目指す物語です。

スポ根ドラマとロマンチック・コメディを合わせたような作りで、ストーリー展開はまあお約束ですが、天然で負けず嫌いでチャーミングなヒロインの頑張りと快進撃は、こちらまで元気にさせてくれます。

往年の古き良きロマコメの香り、50年代末のパリのファッションやインテリア、フランスvsアメリカの伏線など、あちこちに楽しめる細部が満載。現代的なスパイスを控えめに振りかけた、懐かしいお菓子を味わう気分でどうぞ。

 

 

『イーディ、83歳 はじめての山登り』、『グレタ』について書きました(連載更新されています)

Twitterの方をご覧の方はご存知と思いますが、某救援会に参加した3週間ほど前から突然多忙になり、「シネマの女は最後に微笑む」第74回更新のお知らせをコロッと忘れていました。ごめんなさい。

ですので、今回は連載2回分の告知をまとめてします。

どちらも、「この女優だからこその作品」だと思います。

 

 

 ◆『イーディ、83歳 はじめての山登り』(サイモン・ハンター監督、2017

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イギリス映画です。8384歳という同い年でイーディを演じたシーラ・ハンコックの、豊かで繊細な表情が素晴らしい。ほとんどそれに尽きると言っていいでしょう。スコットランド、ハイランド地方の美しく雄大な自然に、深くシワの刻まれたハンコックの風貌がよく映えています。

彼女は1933年生まれ。演劇やミュージカルから出発し、トニー賞ローレンス・オリヴィエ賞に何度もノミネート。映画、テレビドラマに数多く出演し、映画とテレビの女性賞で2010年の英国生涯功労賞を受賞しています。

イーディをサポートする役のケヴィン・ガスリーも好演。祖母と孫ほど世代の離れた者の間に、次第に生まれていくシンパシーと情感がしみじみと伝わってきます。

 

 

 ◆『グレタ』(ニール・ジョーダン監督、2018) 

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アイルランドアメリカ合作のスリラー映画。イザベル・ユペールがダーティ・ヒロインであるグレタを演じています。

個人的にユペールのファンで彼女の作品はほぼ全部観ていますが、メンタルを病んだピアノ教師の『ピアニスト』や、レイプ被害を受けるゲーム会社社長の『エル ELLE』など難しい役を演じてきた彼女のことなので、このヤバい初老の女の役も余裕でこなしています。

共演のクロエ・グレース・モレッツの愛らしいルックスは、怖がる演技がよく似合います。また、ニール・ジョーダンの作品によく出演しているスティーヴン・レイが最後の方で登場。この人が主演した『クライイング・ゲーム』(1992)、良かったですね。

アッパーミドル主婦の性的混迷をシニカルに描く『午後3時の女たち』(連載更新されました)

お知らせ、遅くなりました。

「シネマの女は最後に微笑む」第73回は、アメリカ大統領選の報道で耳タコなほど聞いた「分断」という言葉を枕に、『午後3時の女たち』(ジル・ソロウェイ監督、2013)を取り上げています。

 

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物理的にはほぼ満たされているけれども、平穏な毎日に退屈し、性欲と被承認欲を持て余した専業主婦を主人公に、アメリカのアッパーミドルの市民の日常をシニカルかつユーモアを交えて描いたドラマ。

ここに登場する階層は、日本で言うと世帯年収800万〜1500万、持ち家と車を所有し大都市近郊に住む比較的高学歴でリベラルな層、というイメージです。
ヒロインの属するのはユダヤ人コミュニティですが、ママ友の一人にはアジア系女性もおり、皆既婚で子供は二人目を持とうかという年代。お金持ちというほどではないけれども、生活ぶりには余裕が感じられる。


30代後半で子供もいて、しかし学生気分も少しひきずっていて、夫たちはIT関係のベンチャー企業やクリエイター系の仕事で、休みの日はおじさんバンドで練習したりサーフィンしたり。日本だと湘南や藤沢あたりに住んでいる感じなのかなと。

 

主婦レイチェルを演じるキャスリーン・ハーン、ちょっと脇が甘く、なかなかイタいところも曝け出す役を演じて、しかし下品にはならず好感が持てます。
ダンサーでセックスワーカー若い女マッケナを演じるジュノー・テンプルは、小柄で妖精みたいな雰囲気がチャーミング。妖精が小悪魔に変貌していくところも見所です。
テキストでは言及していませんが、精神分析医の初老の女性のキャラも面白いアクセント。

少しずつ予想を裏切る展開に引き込まれます。おすすめ。

ブラックな笑いが満載の犬も食わない『おとなのけんか』(連載更新されました)

「シネマの女は最後に微笑む」第72回は、『おとなのけんか』(ロマン・ポランスキー監督、2011)を取り上げてます。誰も「最後に微笑」まないけど、アイロニーに満ちた非常に面白い作品ですね。

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元は舞台で脚本が秀逸。子供の喧嘩で片方が怪我をした‥‥そこから始まる被害者両親と加害者両親の話し合いが、次第に泥沼に。最初は互いに牽制し合い気取っていたものの、次々と思わぬ綻びが。
ジョディ・フォスタージョン・C・ライリーのリベラル夫婦と、ケイト・ウィンスレットクリストフ・ヴァルツネオリベ夫婦の対比の中で、徐々に浮かび上がる夫婦問題の描写も、実に皮肉が効いています。

失笑する場面多数。9年前の作品でありながらまったく古さを感じさせずリアルです。
特にJ.フォスターとK.ウィンスレットは、よくこの厭な役を堂々と演じ切ったなと感心。


テキストでは三つの対立関係を抽出して整理しました。読んでから見ても十分楽しめます。
未見の方は是非!

秘密の多い未亡人を演じるダイアン・キートンの軽快さ『ロンドン、人生はじめます』

連載「シネマの女は最後に微笑む」第71回は、『ロンドン、人生はじめます』(ジョエル・ホプキンス監督、2017)を取り上げてます。

 

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ロンドン最大の公園ハムステッド・ヒースで暮らしていたホームレス男性が、裁判の末、土地の所有権を得たという御伽噺のような実話を元にしたヒューマン・コメディ。
主演のダイアン・キートンは、ハムステッドの高級住宅街に住む未亡人を演じています。表向きは優雅に見えるが経済的には逼迫している中、自分と正反対の生き方をしているホームレス男性に出会う‥‥という展開。


緑豊かな公園の自然を捉えた映像が、とても美しいです。邦画だといろいろ思わせぶりな描写が入りそうな中高年の恋愛が、サラリと描かれているところも良い。ユーモアや皮肉もたっぷり。
ヒロインに言い寄る会計士ジェームズがキモいのなんの。特に「ハッピィバースデー」を歌うシーンでは、半笑いで「うえぇ、やめてー」となります。
そしてダイアン・キートン、幾つになってもスタイルをキープしていて、軽快でカッコいいなぁ。

 

呼び方から浮かび上がる関係性‥‥『あなたの名前を呼べたなら』

遅くなりましたー。

連載「シネマの女は最後に微笑む」第70回は、夫や妻の呼称問題を枕として、『あなたの名前を呼べたなら』(ロヘナ・ゲラ監督、2018)を取り上げています。

 

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ブルジョワ息子とメイドの恋愛未満の関係。「病んだ王子と健気な娘」という『美女と野獣』パターンの変形と言えるかもしれません。

二人の間に漂う雰囲気はほのぼのとして、次第に恋心に気づいていくヒロインが可愛らしい。その中で、身分制度がいまだ色濃く残るインド社会の諸相が浮かび上がってきます。


興味深いのは、欧米化された富裕層と伝統的な庶民のライフスタイルが、相対的な視線で描かれている点。対立関係になった相手が最後に味方になるという展開にも、監督のバランス感覚が効いています。

インドの街の賑やかな情景やインテリア、ファッションなど、色彩の配置が美しい。

またインド映画でよく唐突に始まるダンスシーンは、内容に即したかたちでさりげなく挿入されています。

 

今回は、映画の場面の画像が何枚か入ってますよ。おすすめ。