「シネマの男」第6回は、ケヴィン・スペイシー主演の傑作『アメリカン・ビューティ』

「シネマの男」第6回は『アメリカン・ビューティ』(サム・メンデス監督、1999)を取り上げてます。

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サム・メンデスはこの監督デビュー作で、アカデミー監督賞、ゴールデングローブ賞 監督賞を受賞。
他に『ロード・トゥ・パーディション』、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』、『007 スカイフォール』など、明暗の美しい引き締まった画面にスタイリッシュな演出で人間の病の部分を突っ込んで描く、個人的に大好きな監督です。

編集者の人が、「この映画を大学生の時に見た時は気持ち悪いと思ったが、このテキストを読んでいろいろ腹落ちし、浄化された気分になった」と言って下さいました。
確かに公開当時、娘の友人への主人公の妄想ぶりが「キモい」と話題でしたが、ドロドロしないクールなタッチの中に、ブラックな笑いも込められ、傑作です。

俳優もいいですね。娘役のソーラ・バーチはこの作品で注目されましたが、美人の友人に抱くかすかな鬱屈をよく表現しているなと改めて感心。見ていて、なんだかオバQに出てくるP子に似てると思いました(古!)。可愛いです。
もちろん、ケヴィン・スペイシーの、滑稽さとひんやりした諦観の同居した演技の素晴らしさは言うまでもありません。
ご本人はあんなことになって非常に残念ですが、ファンなのでいつか復帰して頂きたいなぁと思っています。

 

「シネマの男」第5回は、フレンチトーストを作りたくなる『クレイマー、クレイマー』

連載更新されました。

 

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43年も前の作品ですが、あまり古くなっていないのに驚きます。家事育児をすべて押し付けられ悶々としている妻、それに気づかない夫、とんでもなく大変なワンオペ育児と仕事の両立、シングルファーザーの苦悩‥‥。
私は子供がいませんが、シングルのお父さんお母さんにとっては、突き刺さる場面が一杯でしょうね。

 

メリル・ストリープの演じる母について「子供を置いて出ていくなんて酷い」という感想をたまに見ます。
しかしあの生活を続けていたらいずれは精神を病んだか爆発しただろうし、仕事もないのに子連れ家出は無茶ですし。
やっと経済力をつけ、息子を引き取りたいと言い出した彼女の気持ちが、裁判シーンを通じてわかるように描かれていると思います。

 

久しぶりに見直して、やっぱりよくできてるなぁと細かいところに感心しましたが、公開当時は大学生だった私にとって、テーマが自分から遠いものだったせいか、フレンチトーストのシーンがやたらと印象に残りました。そういう人、わりと多いんじゃないでしょうか。
当時、フレンチトーストは今ほどポピュラーな食べ物ではなかったので、一応、本屋で料理本を立ち読みしてから作った覚えがあります。

作品中で、フレンチトースト大失敗の後、二人だけの朝の食卓に既製品のドーナツが出ているシーンが印象的です。朝から子供にお砂糖たっぷり油たっぷりのドーナツは、栄養が偏ってあまり良くないと思われますが、テッドは余裕がないし、息子のビリーは(ドーナツも美味しいから)文句を言わない。

母がいなくなって父子二人の生活が乱れていく象徴としての、朝飯ドーナツでした。

 

イラストは、苦戦しました。ダスティン・ホフマンの顔が、なぜかどんどん役所広司になっていくのです‥‥描いても描いても‥‥。何度も消してやり直しましたが、まだ今ひとつ。鼻をもっと強調すべきだったんだよなー。。。

 

次回は、1999年の話題作『アメリカン・ビューティ』(サム・メンデス監督)を取り上げます。不幸な巡り合わせとなった二人の父親を比較してみます。どうぞお楽しみに。

「性の源にある暴力性の避け難さ」についてのメモ

いずれはまとまったテキストにするために、ここに関連ツイートを置いておく。

※スレッドになっているものが多いので、興味のあるツイートがありましたら是非スレッド全体をお読み下さい。随時追加の予定。

 

 

 

 

 

 

「シネマの男」第四回はティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』です

連載更新されました。今回は『ビッグ・フィッシュ』(ティム・バートン監督、2003)を取り上げています。

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ポイントは父と息子の職業の違いに注目し、フィクションと現実の融和に重ねた点です。「人はただ出来事の積み重ねを生きるのではない」のですね。

バートン監督のパートナーで、さりげなく一人二役を演じているヘレナ・ボナム=カーターの役割が、非常に重要かつユニークで面白い。彼女は、物語内の現実とフィクションが溶解する地点に立っています。
ちなみに昔はヘレナ・ボム=カーターという表記をよく見たのですが、wikiで確認したらヘレナ・ボナム=カーターでした。発音に合わせたんでしょうかね。

 

アルバート・フィニー演じるお父さんは、側から見ると愉快で愛すべき人物だけど、自分の父親だったらちょっとウザいかな。お顔、楽しく描かせて頂きました。

彼の若い頃を演じるユアン・マクレガーが、またいいんですよね。楽天的で。なんだかんだあっても、基本的に楽天的であるというのは、生きていく上で結構重要なことだと思いました。

 

次回は、『クレイマー、クレイマー』のダスティン・ホフマン演じるお父さんを取り上げます。先日久しぶりに見直しましたが、やっぱりこれよく出来てるなぁと思ったのと同時に、40数年も前の作品とは思えない生々しさも感じました。どうぞお楽しみに。

 

「シネマの男」第3回は今改めて見たい『グラン・トリノ』

連載「シネマの男 父なき時代のファーザーシップ」、更新されました。
第3回は『グラン・トリノ』を取り上げてます。

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公開当時もあちこちで論じられた話題作ですが、「父」という本連載のテーマに、主人公をめぐる二つの暴力という観点を絡めて書き起こしました。
主人公の選択が英雄的であると同時に悲劇的なのは、そこに明らかに戦争が影を落としているからです。戦争は彼の心的外傷として扱われていますが、全世界でここまで一つの戦争が注視されている現在、改めて見るべき作品だと思います。

 

クリント・イーストウッドのご尊顔のシワをちまちま描き込むのが、楽しかったです。楽しくて描き過ぎて、この当時のご本人より老けてしまったので、少し消したりして調整しました。こんなもんでしょうか‥‥。

テキストでは触れていませんが、犬がいいんですよね。常に主人公に寄り添っていて、最後の登場の仕方も嬉しくなります。
アキ・カウリスマキも”犬がいい”監督ですが、彼の『浮き雲』と『希望のかなた』の犬くらい、『グラン・トリノ』の犬も印象に残ります。

 

次回は、『ビッグ・フィッシュ』(ティム・バートン監督、2003)のあの法螺吹き親父、ではなく愉快なお父さんを取り上げます。回想シーンはユアン・マクレガー、現在シーンはアルバート・フィニーが演じています。テキスト公開は4月16日(土)です。

「シネマの男」第2回は『リトル・ダンサー』です

連載「シネマの男 父なき時代のファーザーシップ」、更新されました。

第2回は、『リトル・ダンサー』(スティーブン・ダルトリー監督、2000)を取り上げています。

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トランジェンダーのマイケル、ビリーとウィルキンソン先生の娘との関係など、セクシュアルマイノリティや性の目覚めも重要なモチーフとなっていますが、連載の狙いに沿って父と子の関係に絞りました。

最後に登場する25年後のビリーを演じるアダム・クーパーが主演した『白鳥の湖』は、同性愛がモチーフになってますね。マシュー・ボーン版の舞台『白鳥の湖』、見た後はしばらく頭を離れませんでした。

再来日の名古屋公演(2005)について、このブログ記事の後半で書いています。

ohnosakiko.hatenablog.com

 

リトル・ダンサー』のミュージカル版である『ビリー・エリオット』を撮った同名の映画も素晴らしいです。こちらでは『リトル・ダンサー』よりも、亡き母との関係やサッチャー政権下の労働争議がクローズアップされています。

感想記事はこちら(一部の記述をforbesjapanの記事に使ってます)。

ohnosakiko.hatenablog.com


本文には書きそびれましたが、25年後、トップダンサーとなったビリーの晴れ舞台を見に、長男トニーに連れられて上京する老いた父ジャッキーの、地下鉄の上りエスカレーターに後ろ向きに乗っている姿が泣けます。
長年炭鉱夫で地下へと”降りていく”姿が印象的だった父が、初めて”上っていく”場面です。年老いて様々な認知も弱まり、ビリーのスクール面接から25年ぶりに来た大都市ロンドンの速度に、彼は到底ついていけません。そのことが、上りエスカレーターなのに後ろ向きに立って茫然自失となっている姿で表されている。それは同時に、過去を振り返っている老人の姿でもあります‥‥。

記事の最後のページに、お父さんを演じたゲイリー・ルイス(2015年撮影)の画像を入れて頂きました。渋カッコいいです!

 

第3回では、クリント・イーストウッド監督、主演の『グラン・トリノ』を取り上げます。「主人公をめぐる二つの暴力に関する話」という観点から書く予定。3月19日公開です。

新連載「シネマの男 父なき時代のファーザーシップ」のお知らせ

お待たせしました! 

 

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新連載「シネマの男 父なき時代のファーザーシップ」が始まりました。
第一回目は『そして父になる』(是枝裕和監督、2013)を取り上げています。
少し長めの前振りに、男でも親でもない私が「父」をテーマにした理由を書きました。是非お読み下さい。

 

以下少し補足的に。
昨今のリベラル的な風潮の中で、「父」というテーマは保守的と捉える向きもあるかもしれません。「有害な男性性」の問題視によって男性性の中の支配的、暴力的側面を取り除いていこうという動きもあり、強い父や強い父性など「父親的なもの」はますます時代遅れとなっていくと思われます。
もはや「父なる者」はいないのだし、その方がいいという考え方もあるでしょう。サブタイトルの「父なき時代」はそういう現代を示しています。

しかしながら、良くも悪くも人は、「父」や「父なる者」と一度はぶつかる必要がある、ぶつかることでなんとか大人になっていく、と私は考えています。

 

また、「父」は社会においては「法」や「規範」となって現れますが、それは必ずしも絶対的なものではないことを私たちは知っています。
家庭内の父も同様です。それでも表向きは、「お父さんは正しい」をやらねばならない立場、「知っている者」として子を一度は転移させるのが、父の役割だと思います。

 

ところで、この連載では久々にイラストも担当しております。
毎回、役を演じる俳優の顔をメインに、ポイントとなった小物などを配しています。なるべく似せようとクソ真面目に描くだけで個性のない絵ですが、ドラマの中の父親像を思い浮かべながら、テキストと共にお楽しみ頂けましたら幸いです。

毎月第三土曜午後6時更新です。
どうぞよろしくお願い致します!

 

今のところ30本ほどの作品リストを作っていますが、前の連載でもそうだったように基本的にネタバレに配慮しません。ですのであらかじめ次回に取り上げる作品を予告しておいた方が、「見てから読みたい」人には親切かなと思います。
次回は『リトル・ダンサー』です。あのお父さんにスポットを当てます。