アート

「現代美術って、やおいだな」「は?」

何をどこで聞き齧ってきたのか知らないが、夫が突然、「やおいって何だ?」と言った。 彼は「腐女子」も「BL」も知らない。そもそもあまりマンガを読まない。エヴァですら、テレビ放映も劇場版も見てなくて偶然パチンコで知ったのである。50代の普通のおじさ…

「壁がないからアートが売れない」という話

「ネット上の他者の言葉と自分の言葉を併置してみるシリーズ」第二弾です(第一弾はこちら)。 昨日見たやりとり。@asakasaku そんなものですwでもヨーロッパでは壁にかける安い絵を探してる人は結構いて、アートもそこそこ売れるんだよね。市場があるのとな…

アート、症候、ドーナツの穴

私はTwitterをやっていないが、興味をもった10数人のアート関係の人々のtweetを時々見ている。その中で最近印象深かった発言。 ともあれ、ブリュットであろうがファインであろうが、「アートは表現する」と言うのは正しくない。もしくはきわめて瑣末な属性で…

丸木俊と丸木俊子

雨がシトシト降る中、三岸節子記念美術館で開催中の「生誕100年記念 丸木俊展」を観に行った(私の今住んでいる一宮市は三岸節子の出身地)。2月から5月にかけて丸木美術館で行われた企画展の一部が来たものらしい。 洋画家 丸木俊(旧名 赤松俊子、1912−20…

美術館の人々、あるいは「人間の方が気持ち悪いがや!」

先週末、金沢に遊びに行ったついでに、金沢21世紀美術館で開催されていた現代美術展『ソンエリュミエール―物質、移動、時間』、『ソンエリュミエール、そして叡智』を観てきた。 ほぼ旧作の展示なので、村上隆の「シーブリーズ」を初め、個人的には既に観た…

J.ボードリヤールの『芸術の陰謀』と画家の逆ギレ

芸術の陰謀―消費社会と現代アート作者: ジャン・ボードリヤール,塚原史出版社/メーカー: エヌティティ出版発売日: 2011/10/12メディア: 単行本購入: 11人 クリック: 138回この商品を含むブログ (6件) を見る 1996年、『リベラシオン』紙上に J.ボードリヤー…

時間について

内田樹の『街場の教育論』の中に、音楽について記した箇所がある。 大学の教養課程を論じるにあたって言及している孔子の「君子の六芸」(礼・楽・射・御・書・数)の中の「楽」が、音楽。これに似た内容は内田ブログでも見た気がするので、例によって繰返し…

現代アートとヴァイオリン少女

大学3年くらいだったと記憶しているので、今から30年前、80年代冒頭の話。 芸大の彫刻科は3年から素材によってコースが分かれており、私は金属を選択していた。そして、現代美術の底抜けの泥沼に足を踏み入れかけていた。 もちろんその時は泥沼などとは思…

私は「コドモノクニ」から来た

だいぶ前から気になっていた『コドモノクニ名作選』(全2巻/アシェット婦人画報社)と、それに続く『コドモノクニ』vol.2、vol.3 をまとめて買った。私にとって、三冊一気買いするには少々お高い買い物だったが思い切って。 『コドモノクニ』とは、関東大…

芸術への「信仰」

「「芸術」否定の書」と背表紙に銘打たれた『芸術崇拝の思想 政教分離とヨーロッパの新しい神』(松宮秀治、2008、白水社)は、「芸術はいかにしてとなったのか」を近代ヨーロッパの思想、文化などと絡めて論じた本。 国家権力から分離した宗教の穴を埋める…

『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』を観て

覆面のストリートアーティスト、バンクシー*1の初監督作品。 ”アート業界への痛烈な皮肉”だけには留まらない深さをもった傑作ドキュメンタリー。*2 やっと先日観てきた。 まずざっと内容紹介を(ネタばれあり)。 主人公は、ロスの古着ショップがそこそこ成…

「この暑さにやられてる」とロシアの作家は言った・・・ソローキンの思い出

今からもう10年以上前のことなのに、時々昨日のように思い出す。 歳下の友人のN、Sと私、そしてロシア語通訳として同行を頼んだ知人のKは、東京は北区滝野川にある東京外国語大学教職員宿舎を目指して、テクテクと住宅街の中を歩いていた。カンカン照りのう…

「太陽」をめぐって

昨日の記事の続き。 『生きものの記録』のラスト近く、三船敏郎が精神科病棟の窓から太陽を見上げ、「地球が燃えとる!‥‥おお燃えとる燃えとる!」と叫ぶ。自分は既に別の星に移住し、地球は原水爆実験によって火の玉になったと思い込んでいるのだ。また、『…

カンディンスキーの「あれ?」と地図をひっくり返した小学生

デザイン専門学校のデッサンの時間、幾何形態の形の狂いに気づかないで描いている学生に、「紙を横向きにしてみて」と言う。なんで?という顔をしながら画用紙をぐるっと90度回してみると、「あれ?」。なんか変。 形の間違いがそのままで発見できればそれに…

図工の時間は楽しかったですか?

(※追記あり) Togetter - 「「絵の描き方」を習った覚えがないよ」 はてなブックマーク - Togetter - 「「絵の描き方」を習った覚えがないよ」 はてなブックマーク - はてなブックマーク - Togetter - 「「絵の描き方」を習った覚えがないよ」 はてなブックマ…

マイブコメ&フェミニスト村上隆子の出世

この数日、村上隆関連のニュースやTogetterが次々お気に入りに上がってくるのをどんどんブクマしてコメントつけていたら、自分でもウザったいほどの数になったので並べてみた。最後に短いまとめを付記。 ● 貴族社会の象徴たる場所と顧客はセレブの現代アート…

自画像をめぐる自意識

画学生が取り組む課題の一つに、自画像がある。手頃なモチーフがなくモデルも手配できず描きたい場所は遠過ぎる、そんな時でも困らない一番身近な対象、自分自身。だから、貧乏な画学生は絵の修練のためによく自画像を描く。 画家の自画像も面白い。自画像で…

アートの幻想 --- 4. 受動性のアート

1. 資本主義カルチャーとしてのアート 2. 消費としての芸術体験 3. 忘却による反復 4. 受動性のアート 今「アート活動を行う」とは、アートを更新していくことではない。それはもうあらかじめ、すべてを受容し差異化していくアートの中に書き込まれている。 …

アートの幻想 --- 3. 忘却による反復

1. 資本主義カルチャーとしてのアート 2. 消費としての芸術体験 3. 忘却による反復 私が現代アートに興味を持ち続けてきた理由の一つは、それが自らを定義付けできないもの、あらゆる事象を受け入れ続けるものという点で、非常に特異だということだった。こ…

アートの幻想 --- 2. 消費としての芸術体験

1.資本主義カルチャーとしてのアート 2. 消費としての芸術体験 愛知県の豊田市美術館に、ヴォルフガング・ライプの展覧会を見に行った時の体験について書く。 ライプのそのインスタレーションは、長い時間をかけて彼が野山を歩き回り、さまざまな花から少し…

アートの幻想 --- 1. 資本主義カルチャーとしてのアート

10、デュシャン 現代芸術ってやったもの勝ちであることに早々に気づき、かつそれを自虐的に利用して「やったもの勝ち」の領域に堕すことの無かった奇才。以後の芸術家は、「美術史は第一世界大戦で終了しました」と言って憚らない自分の目から見れば、美術…

高橋氏とのブコメ議論まとめ

例の首都大の学生のやった件で、この数日、id:NaokiTakahashi氏(以下、高橋氏と表記)とのブコメ議論があちこちで長引いた。 個人的には、被害者の受けた苦痛と屈辱の前には、こんなアート論議などどうでもいいものだと思っているし、この事件についてアー…

プロとアマ、場所とお金と人の話‥‥‥月見の里学遊館のシンポジウム

先週お知らせしていたこのシンポジウムに出るために、この間の日曜日、静岡県は袋井市の月見の里学遊館に行ってきた。その時の模様をつらつらと。 しょっぱなから、掛川駅でこだまを降りて東海道本線に乗り換えるのにボーッとしていて反対方向に乗ってしまい…

お知らせ

今週末に、静岡県袋井市にある月見の里学遊館というところで、トークセッションに出ます。以下、月見の里学遊館HPより。 6/13(日) 月見の里自由大学シンポジウム 誰もが自己表現できる時代に、アーティストに残された役割とは? 13:00〜14:30 パネリス…

講評会

前記事に続いてデザインや美術学校関係の話。 美術、デザイン系の学校の生徒は、それ以外の学校の生徒がほとんど体験しないある「試練」を日常的に科せられる。 それは、衆目の中で作品を他人と比較され、批評されるということだ。 音楽だと順に演奏し、演奏…

ゲシュタルト崩壊する立方体

デザイン専門学校で受け持っているデッサンのカリキュラムの中に、幾何形態がある。立方体、円柱、円錐、四角錐、三角柱、球‥‥。誰でも大抵一度は描かされるモノだ。 セザンヌの有名な言葉で「自然界にあるのは円柱と円錐と球だ」というのがあるが、デザイン…

父と芸術

子どもの頃、私に芸術への志向を植え付けたのは父だった。 父は一介の高校の国語教師だったが、ロマン派の音楽とルネサンス絵画を人類最高の芸術だと信じ、またロダンの彫刻と飛鳥の仏像をこよなく愛していた。 父の書斎には、広隆寺の弥勒菩薩の写真が飾っ…

フィギュアを見て「技術か芸術か」について考えた

オリンピックのフィギュア、堪能させて頂きました。この時期仕事が休みなので、家でリアルタイム観戦できるのが有り難い。これからまたNHKの特番で浅田真央&キム・ヨナの演技を見る。いったい何度目だ。何度見てもいいものだ。明日のエキシビションもとって…

大阪府の障害者支援のアート事業がよくわからない件

ラピュタ模倣で最優秀賞取り消し…大阪府主催の公募展:社会:スポーツ報知 短いので全文掲載。 障害がある人が創作した現代アートを展示する大阪府主催の公募展で最優秀賞を受けた絵画が、宮崎駿監督の映画「天空の城ラピュタ」のキャラクターの模倣であるこ…

ネズミにはネズミの、ネコにはネコの・・・琵琶湖博物館で『骨の記憶』を見た

この間、滋賀県立琵琶湖博物館で開催されている企画展示『骨の記憶 - あなたに刻まれている五億年の時 - 』を見てきた。実は、それを見に琵琶湖近辺まで行ったのではなく、その近くの温泉に行く(人生には時々温泉が必要であることをこの歳になって実感)途…